櫻イミト

カビリアの櫻イミトのレビュー・感想・評価

カビリア(1914年製作の映画)
4.0
黎明期のイタリア映画を代表する史劇超大作。翌年に作られたあの「イントレランス」(1916)に直接的な影響を与えたことで知られている。

紀元前1世紀頃。古代ローマ・シチリア島の少女カビリアは山の噴火騒ぎで両親とはぐれ、海を挟んだ敵国カルタゴに売られる。そしてカルタゴの邪教モレク神への生贄になる寸前、敵情視察中のローマ軍人フルヴィウスと家来の巨漢マチステに救われる。しかし、逃走中にバラバラになりカビリアはカルタゴの悪女ソフォニスバの召使に、巨漢マチステは捕虜になってしまう。その後、ローマとカルタゴの戦争を経て10年がたち、逃げ延びた軍人フルヴィウスは二人を救おうとカルタゴに向かう。。。

「國民の創生」(1915)を撮り終えたばかりのグリフィス監督が本作を観て驚愕した!と「ストーリー・オブ・フィルム1」(2011)で紹介されていてずっと観たかった1本。

これは凄い!驚いたし映画史観を改めさせられた。「イントレランス」以前にこれだけの大作がヨーロッパで、しかもイタリアで作られていたとは知らなかった。モレク神像を配した巨大セット、海・雪山・砂漠と贅沢なロケ撮影、ドイツ表現主義を思わせる美術と特殊効果。そしてグリフィス監督が最も驚いたという“ドリー撮影”は、ちょっとしたシーンでも頻繁に実にスムーズに行われていて古さを感じさせない。シナリオ展開は少々乱暴にも感じたが、その分シーンがバラエティに富みテンポが出ていたと思う。

個人的にはモレク神像がすごく好み。いかにも悪の要塞なデザインで、燃えさかる口の中に生贄の裸の子供を投げ入れるのも凄い。頼れる巨漢マチステのキャラ、人間ピラミッド作戦など小技も楽しかった。ただ登場人物が聞きなれない名前ばかりで中間字幕も多いため途中で少し迷子になった。面白かったのでまた観直そうと思う。

映画黎明期の1910年代。フランス、ドイツ、東欧の映画は目立つのにイタリアは聞かないなあと漠然と思ってはいた。今回調べてみたところ、当時は史劇を中心に盛んに作られていて本作でピークを迎えていたらしい。ところが直後に第一次世界大戦が勃発し全ての映画産業は中断、1920年代以降はムッソリーニのファシズム政権下でプロパガンダ映画が作られる程度。業界が復活するのは1935年のチネチッタの開設からで、第二次世界大戦後に満を持したようにネオリアリズム旋風が巻き起こる・・・つまり本作以降30年間はイタリア映画の空白期間だったようだ。

こう聞くと俄然、本作以外のイタリア・サイレントも観たくなるが、残念ながら日本語版は見つけられなかった。

「ポンペイ最後の日」(1908)史劇映画最初の成功作品
「トロイ陥落」(1910)イタリア初長編、本作のパストローネ監督作
「クオ・ヴァディス」(1912)記録的ヒット、アメリカが再映画化

これらの作品をいつか観てみたい。
櫻イミト

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