ひでやん

渇望のひでやんのレビュー・感想・評価

渇望(1949年製作の映画)
3.4
2人でいると窮屈で、ひとりになると寂しくて。

口論の絶えない倦怠期の夫婦を描いたベルイマンの初期作品。エゴをぶつけ合いながらも歩み寄る夫婦の姿を、過去を振り返りながら描いていく今作に「水」のイメージを持った。

渦潮を映し出したオープニング、湖の戯れ、ボトルのアップ、気を紛らわす酒、そして海。「男と女は永遠に隔てられてる。涙と誤解の海で」という台詞が印象的で、長年連れ添っても分かり合えない男女の葛藤がその言葉に込められていた。

妻のルートは過去に傷を持ち、そのストレスから夫に当たり散らすのだが、度が過ぎる。まあよく喋る女で、のべつ幕なし。配慮に欠ける言動の連発で、終盤のうがいなんて酷い。「ガラララララララ〜」て、わざと不快にさせているとしか思えない。歯磨きもシャワーも数秒で済ませちゃうし、煙草→しゃべり→酒、の繰り返し。なんか現実味がないってゆうか、大袈裟な演劇を観ているようだった。

列車で旅をする夫婦を描く一方、別の場所ではルートのバレエ仲間だったヴィオラのドラマが進行する。精神科医の医者から口説かれるシーンで、医者の方に向いたカメラがゆっくりと移動し、2人の横顔を画面の両端で捉えるアップショットになり、ヴィオラへ移動し、また2人の横顔になるのが良かった。バレエ学校時代では、2つの鏡にそれぞれの顔を映すシーンが印象的。ベルイマンは鏡越しの会話が好きだな。

ヴィオラの結末を水の音だけで描いたのは良かったが、倦怠期の夫婦に直接結び付かないのがいまいち。夫婦それぞれの過去を振り返るだけでよかった。終盤の「殺意」はヒッチコックのような描写でゾクリ。妻は、心の傷から解放されたいと願う渇望なのか、夫は自由になりたいと願う渇望なのか。いずれにせよ、孤独よりはマシって事だろう。
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