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Kids Return キッズ・リターンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

Kids Return キッズ・リターン(1996年製作の映画)
4.2
 受験も迫る18歳の秋、ミヤワキマサル(金子賢)とタカギシンジ(安藤政信)は自堕落な日々を送っていた。授業をサボり、屋上から性器を露出したカカシの人形をぶら下げ、彼らを見下した発言をした橋田先生(芦川誠)の車を燃やしたりしている。だが担任の日本史の教師(森本レオ)だけは彼らを見捨てずにいた。シンジの家の門の前でマサルが鳴らす自転車のベルが2人の合図だった。退屈な日常、つまらない学生生活、彼女もいない自堕落な日々。2人はバイトする気もなく、駅構内でカツアゲをしながら無為に日々を過ごす。行きつけの喫茶店「カトレア」の店内、同じクラスのヒロシ(柏谷享助)は密かに喫茶店の娘・サチコ(大家由祐子)に想いを寄せる。陶器の人形をわざと置き忘れ、サチコへのラブレターを盗み見るマサルとシンジは、やがてハナヤマ(やべきょうすけ)たち3人組のいじめからヒロシを守る。恐喝、放火、バックレ、飲酒・喫煙など高校生の非行のフルセットが詰まった自堕落なマサルは、カツアゲした相手が呼んだボクサー(石井光)に頰をしたたかに殴りつけられる。翌日から校舎にマサルの姿はない。心配したシンジの元に、数日ぶりにマサルがウェットスーツ姿で現れる。マサルは「新栄ジム」の門を叩き、アマチュア・ボクサーの道へ進んでいた。

 自堕落な日々を送る若者にとっても、その後の人生の選択はもうすぐそこまで迫る。絶対的に打ち込める何かを探しながらもがき続ける男たちの焦燥感は、メンツを潰されたあの日の復讐に始まる。同級生にも関わらず、どういうわけかマサルに敬語を使い続けるシンジとの関係性、自分の後ろを歩いているはずだったシンジが、いつの間にか自分よりも前を走っていたことを知るマサルの焦燥感。映画はマサルとシンジを主人公に据えながら、ヒロシやハナヤマ、それに南極五十五号たちの青春群像劇足り得る。マサルとシンジの持て余し気味の才能は、小さな挫折の連続に阻まれ、その都度困難を極めるのだが、残酷なまでに才能の欠片もないヒロシとは対照的に描写される。人生の全てを賭けた逆転劇となるヒロシのプロポーズ、そこで全ての運を使い果たしてしまった男は、北野映画で極めて印象的なフロントガラスの派手な亀裂により生き絶える。それに対し、悪魔の誘惑に支配されたマサルとシンジの行く手には闇が満ちるものの、幸運にも命だけは生き永らえる。才能を持つものはその才能に溺れ、才能のないものはただひたすら平凡な人生を送ろうともがき苦しむが上手く行かない。『あの夏、いちばん静かな海。』同様に、北野映画にとって青春を賭けた熱量は、暴力同様に易々と伝搬して行く。彼らを見つめる北野武の目線はあまりにも残酷だが、94年8月の瀕死の重傷を負ったバイク事故以降、ここには既に自殺志願者たちの彷徨は見るべくもない。ラストの台詞が勝手に一人歩きした90年代屈指の、北野映画のターニング・ポイントとなった見事な青春群像劇である。
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