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脱獄者の叫びのmat9215のレビュー・感想・評価

脱獄者の叫び(1953年製作の映画)
4.0
思わず語りたくなるエピソードやディテールがいっぱい。

何よりも舞台が沼地(スワンプ・ウォーター)だ。葦原のような沼地を小舟がゆっくり移動するだけで絵になる。絵になると言えば、脱獄囚ヴィットリオ・ガスマンの妻が子供と一緒に小舟に乗って登場する絵面も見事だ。この妻を演じるメアリー・サヴィアンという人の迫力がただものではない。また、沼地の映画に付きものの、ワニの群れや底なし沼もしっかり登場する。

水辺に住まう貧しい人々はフランス語しか喋らない。脱獄囚の居場所を聞いても、いろいろなフランス語の表現で「分からない」と素っ気なく答えるだけ。深夜、火を焚いて死者を召喚しようとする老婆は「ラウール」と声を上げ続ける。

警部補バリー・サリヴァンは沼の水を飲んでマラリヤに罹患し、高熱で幻覚を見る。チープながら、盛大なスモーク、爆発、壁に映じる影といった工夫に満ちた長回しに目を見はる。

脱獄囚と警部補は刑務所の独房と、逃亡後の沼地で殴り合う。沼地における殴り合いは、気持ちが通じ合うことを確認する儀式だ。

疲労困憊した警部補は、救援の船に向かって叫ぼうとしても声が出ない。声を出せないサスペンスに手に汗を握った。

刑期を終えた男は晴やかに故郷に向かう。迫力のある毒妻とどう折り合いをつけるのかが心配になる。そこは回収されない。

ジョセフ・H・ルイスは『拳銃魔』の世評が高いけど、こちらの方が好み。沼地と言えば、ジャン・ルノワールにそのものずばり『スワンプ・ウォーター』という作品がある。ジェフ・ニコルズの『MUD』や、ジャン・ベッケルの『クリクリのいた夏』なんてのもあった。
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