カラン

ヌードの夜のカランのレビュー・感想・評価

ヌードの夜(1993年製作の映画)
4.5
☆冒頭のモンタージュ

クラブを営んでいるヤクザな男(根津甚八)につきまとわれゆすられているのか、それとも自分から足を開くのか。ヤクザの男の反対側には「シャブ」で昇天した表情のチンピラ(椎名桔平)がいる。2人の間で下着を下ろす女(余貴美子)の顔は誘っている。

女を根津甚八と椎名桔平で挟んで、POVでカメラの首を振らず、モンタージュで女の右と左の男たちを映す。継起する左右のモンタージュで女がダブルバインドされているのに、下半身を晒して、哀れな誘惑の表情をしているのである。見事な冒頭のシーンであった。

この後、他人のお役に立つことで喪失感を埋め合わせることが唯一の人生の目標である哀れっぽい代行屋(竹中直人)が、女はつきまとわれているし、ゆすられている、だから自分が助けなければならないと奮闘する。チンピラが女とヤクザ男の説明をしようとしても、「聞きたくない!」と遮ってしまう。女も代行屋に同情する分だけ、自分の口を塞いでしまおうと死に急ぐ。代行屋は女の謎を、お役に立ちたい一心で、悲劇に仕立て上げていく。


☆落下とゴースト ラストシーン〜エンドロール


女は、代行屋の幻想のシナリオ通りに救ってやった。雨の中、2人で埠頭にいると、車内から女がふらっと。男も傘を持って追いかける。右が海のロングショットで、中心を外れた右寄りを女がY軸に沿って歩む。男を置いてけぼりにするように埠頭の空間のずっと奥まで進んで、女は回り込んで、画面中央奥に来る。アテレコのセリフが時折響き、何かの建物の屋上に登ると、女は駆け出して、代行屋の車を奪い、海に向かって走り、突っ込んで、沈んでいく。

ここは上と下のイメージを作っているが、ちょっと弱いか。ロングショットは静けさと孤独が気持ちいいが、垂直方向の落差が伝わりにくい。降雨も雨の線を出したかったろうが、ロングショットをやめないので、降雨装置も使えない。ロングショットの孤独を選んだのだろう。別テイクも見たいが、これはこれでいい感じ。


代行屋はお役に立ちたい一心で、海に飛び込み、何度もダイブして救出しようとする。水中ショットのバストショットで女をゴーストにする。水の中で髪が揺れて、唇の赤がはっきりとでた色調が官能的。しかし、海中の車体へと潜る代行屋の姿は写さない。海面に上がってはーはーしている姿だけ。

残念、車体が海中を沈んでいく姿を撮影して欲しかった。また、水中ゴーストは次の展開で重要だからばっちりなんだけど、代行屋に海中を潜って欲しかった。女の落下とそれを追跡する代行屋の落下のプロセスの両方をやって欲しかったが、両方ともない。(泣)


またまた失踪して代行屋を悲嘆にくれさせたらカットして、ばちんっと回復した女がクラブを訪ねるシーンに接続。お調子者の椎名桔平が女の背後の鏡の中で撃たれて死ぬ。この平面に取り込まれた死は素晴らしい。女もやられる。すると、ゴーストが出現したらいいだけなのに、、、クラブの天井をダブらせた無人ショットで繋いで、ドアが開いて、代行屋の部屋にやって来る。

四谷怪談シリーズでお岩の霊がお袖ちゃんの家の戸口にやって来るが、誰もいないっていう演出が何回かあった気がするが、そんな感じ。あるいは、ドラキュラ系の映画もやりそうな、不可視の何かがすっと空間を通って行ったみたいなのだけど、ちょっとな、、、

(A)埠頭で[落下→ゴースト→失踪]からジャンプカットで(B)クラブに行って[鏡像の死&現実的な(!)死]のシーンの後は、もう一回ジャンプして代行屋のとこに同じ入り方で(C)女が出現すればよかったのに。(B)で死んでゴーストになりまして、その後(C)でゴーストと代行屋はまぐわりました。しかし代行屋の錯覚でした。いやそれじゃあ夢がないから、血は残して、、、みたいな言い訳がましくてゴーストの威力を削ぐ、脆弱な展開にならんで済んだのにな、(B)と(C)をジャンプで繋いでいたならば。(A)でゴースト出したんだから、擬似的なクロスカットでパラレルワールド繋ぎしちゃえばいいのに。(A)の後でジャンプカットを2回やって、(B)と(C)を同じ強度にして欲しかった。つまり、(A)での女の死の後の天井のライトを伝うシークエンスを省略&(B)のように爽やかに(C)でゴースト再出現。こういう超越をベルイマンとか鈴木清順はほんと上手いことやるんだよねー。


女と代行屋が暗い部屋でキスする。画面をいっぱいに埋める余貴美子と竹中直人の間のY軸上をオレンジのネオンが走り、唇を貪り1つを志向する2人を真っ二つにする。かっこいい。ヒッチコックの『裏窓』のグレース・ケリーとジェームズ・スチュワートの次にかっこいい。


エンドロールでクレジットが流れていく。水没した車もクレーンで海中から引き上げられていく。上に上に、しっかりと時間を使えるところ。車体からは大量の海水が流れでてきて、下に落ち続ける落下イメージ。①のところの降雨が続いているんだね。しかし、①じゃないとしても、②でこれくらいの落下イメージを作れていたら、ロバート・レッドフォードも泣いて喜んだんじゃないかと。(泣)

それでこのエンドクレジットが流れるあいだ、ハミングというのかスキャットがかかる。めちゃくちゃ素晴らしい。


オカマ役の田口トモロヲが這いつくばる竹中直人を見下ろすロングテイクのバックショットが忘れがたい。


レンタルDVD。画質は悪くないが、良くもない。リマスターBlu-rayが近々発売されるらしい。うーん欲しいな。55円宅配GEO、20分の11。
カラン

カラン