たむランボー怒りの脱出

月の出の脱走のたむランボー怒りの脱出のレビュー・感想・評価

月の出の脱走(1957年製作の映画)
3.5
アイルランドを舞台にした三つの短篇からなるオムニバスだが、どのストーリーも「時間の引き延ばし」を主題にしている。
フォードにしては珍しくカメラを極端に傾けた不安定な画面がずっと続く第3話も気になるが、最も面白いのは第2話。小さな駅での一分間の停車が乗客たちのトラブルによって延々と引き伸ばされていく。リュミエールによる一分間の映画『列車の到着』ならぬ『列車の待機』。時間の引き伸ばし、すなわち「待つ」ことによって生まれる「自由時間」が人々の心にもたらす高揚がこの短篇に結晶している。
イチャコラやってる男女が車両の強引な連結による衝撃でむち打ち症になるくらい揺れるのだが、そんなことになってもなおめちゃくちゃ楽しそうなのは、ブレッソンの『少女ムシェット』でムシェットがゴーカートが衝突する度に笑って笑ってどうにかなりそうなくらい嬉しそうだった場面を思わせていっそう幸福感があるが、しかしブレッソンの繊細さではなく、フォードにあるのはひたすら大らかで健康的な映画の喜びだ。あとデカいヤギかわいい。