似太郎

男の顔は履歴書の似太郎のレビュー・感想・評価

男の顔は履歴書(1966年製作の映画)
4.7
【愛憎】

加藤泰は1957年の『恋染め浪人』から1966年の『骨までしゃぶる』まで、十年の間に東映で二十一本の作品を撮ってきた。それが『骨までしゃぶる』のあと松竹に請われ、同年に『男の顔は履歴書』『阿片台地・地獄部隊突撃せよ』の二作を、翌67年には再び東映に戻り『懲役十八年』を発表している。

この三作は、第二次大戦とその終戦直後を舞台としているため加藤泰のフィルモグラフィー中【戦中・戦後三部作】と呼ばれている。

このうち、『男の顔は履歴書』と『懲役十八年』は傑作の誉れ高く、実際に安藤組組長というやくざであった安藤昇を主演に据えた企画であった。

安藤昇が俳優デビューした一作目の『血と掟』の一作目は華々しかったが、シリーズ五作は興行的に振るわずで、五作目にして東映から加藤泰を招き、テコ入れ策として『男の顔は履歴書』が制作されたのだった。

冒頭のテロップ「この映画は敗戦後の日本の混乱した時代に想定したフィクションである。そして、世界中の人間が互いに愛し合い、信じ合える日を信じて作られたドラマである」という、正しく戦争という巨大な空しさを通過したあとで、なぜ人は憎しみ合うのかを激しく問うた作でもある。オリジナル脚本は、星川清司と加藤泰が共同で担当。

現在では殆ど禁忌に近い「三国人マフィア」=ボス役の内田良平が戦後の焼け跡闇市に侵入し巨大マーケットを牛耳ろうとするのを、その手下である三国人の大量出血して病院に運ばれた崔文喜(中谷一郎)が、戦争を体験した元・軍医の雨宮(安藤昇)の手により救出されるまでをフラッシュバックと回想形式で綴った戦後の混迷期に於けるカオティックな群像劇である。

ある意味で、深作欣二の『仁義なき戦い』と同じような焼け跡闇市映画でありながら、加藤監督による独自の戦後史観が滲み出た一人の寡黙な医師(安藤昇)の視点を通して語られる朝鮮人と日本人との和解を描いた、非常に倫理的なコンポジションの任侠映画になっている。🤔

暴力と憎しみでは何も解決しない。人を想い、互いに尊重し合うという真っ直ぐな主義主張が込められた加藤泰らしい道徳観に根付いた屈強なドラマツルギーをヒシヒシと感じる活劇で、戦後の混沌とした様相を克明に、アグレッシブに描破した渾身の一作となっている。井筒和幸の『パッチギ!』に足りない要素はまさにコレだった。

🕊今だからこそ観るべき、平和と戦後民主主義のあり方について考えさせらる作品であり、なぜ、生きるか?をテーマとした人間の根源的課題を敢えて「任侠映画」というフォーマットに置き換えて描き出した政治的ディスカッション映画である。
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