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大阪の宿のtheocatsのレビュー・感想・評価

大阪の宿(1954年製作の映画)
5.0
ネタバレ
余りにも世知辛い忍従の中のほのかな灯

夢も希望も見いだせない身につまされるようなまことに「苦い」作品ながら、だからこそ逆説的に意外なカタルシス(浄化感)がもたらされた充実の佳品。

東京から大阪支社に飛ばされたサラリーマンが定宿することになったある旅館における様々な人間模様を描いたモノクロ映画。

俳優陣の基調となる表情は「渋さ」「苦さ」「悲哀」そして「愛想・哀訴笑い」。
悪い奴らは「ふんぞり返った嘲笑い」・・。
そんな中で一人気風の良い笑いを見せていたのが芸者役の音羽信子さん。彼女の華がこの映画の救いでもあったわけだが、さりとて彼女もしがらみに絡められており、おまけに恋する男には振り向いてもらえない悲しさを帯びている。
その彼女が嫌な男に酒をぶっかけるシーンが唯一胸のすく場面とも言える。

ラストは再度東京へ転勤を命じられた主人公の送別会に来られなかったとても哀しい女の子が勤める製缶工場、その横の線路を通過する(おそらく主人公が乗っているのだろう)列車の場面でエンドとなる。
※そこに視聴者側が「希望」を投影することも可能であろう。

五所平之助監督の作品は初めてと思うが、文句のつけようがない充実の構成に全く驚いてしまった。
場面の合間にちょこっと絵を挟むところは小津さん的とも感じた。どちらが先か、それとも当時は一般的なテクニックだったのかまでは分からないが、束の間のな息抜き以上の好ましい効果を感じた。

大阪は四半世紀ほど前に私も出向で城周辺やお濠遊覧船などいろいろほっつき歩いていたので、時代は違えど変わることのない「臭い」の様なものが感じられどこか懐かしくもあった。
総評5

022004
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