たかっし

ラルジャンのたかっしのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0

音楽も作為的な演技もほぼなく徹底した引き算の世界。しかし圧倒的ダイナミズムで描かれる拝金主義。
金が全ての社会に投げ込まれた偽札。偽札の負の連鎖で善良な人間が殺人鬼になっていく過程を、人間的視点を徹底的に排除して描いたロベールブレッソン監督最後の作品。

厳密に言えば、後半の文学的な刑務所の同僚と終盤イヴォンをかくまう老婦人は劇中僅かな優しい視点だ。老婦人と主人公が木の実を取り互いに分け与え合う場面は限りなく美しい。
しかしイヴォンの拝金主義をこれらの優しさは止めることが出来ない。

最後に自ら罪を自白して警察に連行されるイヴォンを一言も発さずただ見つめるだけの群衆のカットで作品は終わる。
ブレッソン監督はこの群衆を私たち観客=傍観者として訴えて貴方方もただ見ているだけだと厳しく糾弾する。こんなに人間に対して厳しい映画はそう多くはないと思う。
たかっし

たかっし