「妙なもんじゃ。自分が育てた子供より、いわば他人のあんたの方が、よっぽどわしらに良くしてくれた。いやぁありがとう」
子供達に会うために上京するも歓待されなかった老夫婦と、一人優しく接する義理の娘の話。
義理の娘役の原節子がとにかく綺麗で、彼女の優しさにグッと来る。血の繋がりのない義親にここまで優しくできるのは凄いことだ。
一方、忙しさを言い訳に世話を放棄する息子たちはなかなかに酷く、資金カンパして熱海の旅館に押し込んだり、まだ死んでないのに喪服持ってこうとか言ったり、葬式後にソッコーで肩身の分配の話をしたり、所々で「うわぁ…」となる行動が多かった。ただ大阪にいた方の息子の「僕、孝行せなんだでなぁ。今死なれたら敵わんわ。さればとて、墓に布団も着せられずや」のセリフは刺さる。孝行したい時に親はなし。
夫婦が尾道に戻ってからの展開は切なく、ほろりと泣ける。特におじいちゃんが部屋に一人佇むラストシーンの絵が印象的だった。
以下、セリフメモ。
「ねぇ。兄さん。ちょっと三千円ばかし出してくれない?お父さんたちに熱海の宿に行ってもらおうと思うの」
「あ〜ら、もう帰ってきなすったの?もっとゆっくりしてくればよかったのにぃ」
「ハハハ、とうとう宿無しになってしもうた」
「いやー。親の思うほど、子供はやってくれませんなぁ」
「なぁ紀さん、ええ人があったら、あんたいつでも気兼ねなしにお嫁に行ってくださいよ。あんたには苦労させ通しで、あたしゃすまんすまん思うて…」
「子供も大きうなると変わるもんじゃのう。しげも子供の頃はもっと優しい子じゃった」
「私ら幸せでさあ」
「そうじゃのう。ま、幸せな方じゃのう」
「そうでさ。幸せな方でさ」
「尾道からよ。≪ハハ キトク キョウコ≫」
「喪服どうなさる?持ってく?持っていきましょうよ。持ってって役に立たなかったらこんな結構なことないんだもの」
「お母さん、どうも良くないみたいだ。明日の朝までもてばいいと思うんだ」
「そうか…いけんのか…」
「人間なんてあっけないもんね。あんなに元気だったのにね」
「私、ずるいんです。お父さんお母さんが思うような人間じゃありません」
「気の利かん奴でしたが、こんなことなら生きとるうちにもっと優しくしとけば良かった。一人になると急に日が長う感じますわい」