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素敵な歌と舟はゆくのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

素敵な歌と舟はゆく(1999年製作の映画)
3.5
オタール・イオセリアーニ監督が、パリ郊外の豪邸に住む裕福な一家とパリの街中で生活する人たちが織りなす人間模様を綴った群像劇。
原題:Adieu, plancher des vaches! (1999)

~パリの郊外にあるお城のような屋敷に住む家族~
・母親(リリー・ラヴィーナ):ヘリコプターで忙しく飛び回る実業家。派手好き。毎晩自宅に客を招いてパーティを開き、お気に入りのペット、アフリカハゲコウ=マラブー(大型コウノトリ)を肩に乗せ、シューベルトの歌曲集「美しい水車小屋 の娘」の第一曲「さすらい」を披露している。
・父親(オタール・イオセリアーニ):壁一面にヌード画を飾り、床に鉄道模型を走らせている部屋で、仕事もせず酒浸りの日々を送る。愛犬のラブラドール・レトリバーと一緒。メイドに手を出し、奥さんのいない時、召使いを連れ、こっそり敷地内の森に射撃に出かける。
・息子ニコラ(ニコ・タリエラシュヴィリ /声の吹替はマチュー・ドゥミ):毎朝スーツ姿で屋敷を出て自分のボートに乗り込んで、ラフな服に着替えながらパリ市内へ向かう。身分を隠して、物乞いの友だちの手伝い、窓拭きや皿洗いのアルバイトをしている。カフェの看板娘ポーレットに恋する。物乞いと一緒にスーパーに押し入る。
・まだ小さい3人の娘

~屋敷の使用人~
・金髪のメイド(ミラベル・カークランド/ロック・クライミングが趣味)
・背の高い召使い(ヤニック・カルパンティエ)

~パリの街中の人たち~
・鉄道清掃員の青年(フィリップ・バ):作業着から着替えスーツとゴミ箱から拾ったネクタイを身につけ、借りたバイク(ハーレー・ダヴィッドソン)でナンパを繰り返す。
・カフェの看板娘、ポーレット(ステファニー・アンク):ニコラと鉄道清掃員の青年の両方から好かれる。
・ニコラが皿洗いのアルバイトをしているビストロのマダム(アリックス・ド・モンテギュ)と眼鏡の息子
・ニコラの友達の物乞いの青年(ジョアサン・サランジェ)
・おろしたばかりの銀行預金を狙われる老婦人(ナルダ・ブランシェ)
・ニコラの友だちのひげの浮浪者(アミラン・アミラナシュヴィリ):酒と歌と射撃で、父親と意気投合。
・浮浪者らといるコーギー犬
・母親の商談相手(愛人)で、愛人を何人も抱えている好色な中年実業家(マニュ・ド・ショヴィニ)
・その部下で、失敗ばかりしているドジな黒人(アルベール・マンディ)
・ジョギングをしている夫婦
・パリへやってきたばかりのアフリカ人の男女
・盗品らしき聖像画を売りさばこうとする移民の女たち
・爆発物を仕掛ける古物商
・獣医にヴァイオリンを習う生意気な男の子
・バーの客(マチュー・アマルリック):ワイングラスを使った"対称性"遊び

~注目の展開~
・カフェの看板娘に積極的にアタックできないニコラと娘を力ずくでモノにしようとしたナンパ男。恋の行方は?
・刑務所から出たニコラが友だちの物乞いに対して取った行動は?
・金髪のメイドはどうなる?
・あれ?お店は?
・ラスト、父親は誰かと一緒に…(カメラが美しい)。

なお、クローズアップとカットバックを嫌うオルセリアーニ監督の映画の映像は、長回しでカット数が少ないのが特徴で、際限ない程カット数を増やしてきたハリウッド映画に毒されている人たちには、刺激が少なく退屈な印象を受ける知れない。
原題の意味は「さらば、陸地/陸(おか)よ」だが、船乗りにとっての陸(おか)は息苦しい場所で、し
ばらくいると海へのあこがれが募るという。
ところが、長らく海にいると、離れたかったはずの陸(おか)が恋しくなったりする。
多くの人たちは、実際には海には出られず陸(おか)で生きていくが、心だけでも船乗りになって海に出ていきたいと思うのだろう。
ところで、そもそも海(船の上)で長く生活できる訳でもないので、憧れの海へ漕ぎ出しても、また陸(おか)に戻ることにならざるを得ないのではないか?
さて、この物語に登場する大金持ちの息子。貧乏人を真似てみたが何か得られたのだろうか?これから先、父と同じように働かず酒浸りの呑気な日々を送りそうである。同様に小さい娘たちも母親のようになりそう。ヴァイオリンを習っている少年など子どもたちや若者の将来を心配してしまうが、杞憂だろうか?
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