真鍋新一

伊豆の娘たちの真鍋新一のレビュー・感想・評価

伊豆の娘たち(1945年製作の映画)
3.5
家父長制のグロテスクさがホームコメディの姿を借りてねっとりと描かれる。当人たちの知らないところで勝手に結婚の話を進めてしまうのは、河村黎吉と東野英治郎と飯田蝶子。正直言って怖すぎて、全然笑えない。勝手に先方の親(笠智衆)と約束してしまった結婚話のために、娘の恋を全力で諦めさせようとする。国会答弁で政治家がついたウソを公務員が公文書偽装で辻褄を合わせるのと同じである。あまりにもおそろしい。怖くて泣きそうになった。

問題はそれだけではない。ホームコメディの皮をまとった本作をあくまでもコメディとして楽しみ抜こうと、娘の気持ちをまったく無視して人生を潰そうとする父親とその仲間たちを「酒の席で失敗したウッカリ者のお父さん」としてフワッと扱う観客がいることにも恐怖を感じている。河村黎吉、東野英治郎、飯田蝶子、笠智衆……ニッポンのお父さん、お母さんと言ってもいい名優がそういう役をやるわけだから、否が応でも特別な意味を持ってしまう。

純愛や自由な生き方を家父長制から守るというテーマで言えば本作の4年前の『戸田家の兄妹』を思わせるが、その前時代的な主義を毅然とした態度で突っぱねる役がいずれも佐分利信である、というのは偶然だが面白い。
真鍋新一

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