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少年と自転車のsnatchのレビュー・感想・評価

少年と自転車(2011年製作の映画)
4.8
これは、何て言ったらいいのだろう。
現実、現実、現実で映像が必死に生きていた。
シリルは、いつもいつも必死に父親や父親の代わりでもある自転車を求めて、走っているか自転車を必死に漕いでいる。遊んだり勉強したり空想したり甘える瞬間はない。過酷な境遇に追いこまれ、過酷な環境が待ち構えていて、子どもらしい場面はひとつも無かった。
でも、シリルは子どもの中の子ども。ただただ、あの父親に振り返って欲しい、愛情が欲しいだけ。子どもは親に見捨てられたとは思いたくない。すぐそばに温かい息を感じていたいのだ。
一番密に接したサマンサが、彼を独りにはさせておけないと芽生えてくる心がたった一つの命綱。サマンサは知っている、シリルの心がいつも懸命に動いていることを。
里親になる人って、優しさも厳しさも教えられる大人でなければいけないし、自分の生き方に甘えのない大人でなければいけないんだと思いました。ジルもサマンサを見守れる恋人だったら3人でうまくいったかもしれないが、これは難しい。サマンサみたいな人がいるだろう世の中を大切にしたい。
この監督の作品、初めて観ましたが、ケン・ローチ監督の投げかけとはまた違う、社会の断片をナイフでスパッと切り取り、このピース、知っているよね、知っていたよねと見せられたような気持ちにさせる。
感心するのは、子ども心の描写です。まだまだ甘える子どもで、ごちゃ混ぜの感情で何度叱られても水を出しっ放しにする姿や、同じような境遇の若い男の後をついて行く感情とか。僕に構うな触るなとか。でも、小さな身体で自転車を必死で漕ぐ姿を見る度に、あーこの子は今、何を思っているのだろうと巡らしていました。
時折りシリルが持っている優しさや笑い顔にサマンサと一緒できゅっとなる。悪い子供なんていないって、心から思いました。
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