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そして僕は恋をする(1996年製作の映画)
4.0
 29歳のポール(マチュー・アマルリック)は高等師範学校で哲学を学び、教授になるエリート・コースを順調に進んでいるように見えたが、博士論文がここ5年程まったく進んでおらず、教授への道は暗礁に乗り上げている。彼には付き合って10年の彼女エステル(エマニュエル・ドゥヴォス)がいるが長い倦怠期に入っており、彼女との関係は決して上手く行っていない。それどころかエステルと付き合いながら、ポールは親友のナタンの恋人シルヴィア(マリアンヌ・ドゥニクール)、シルヴィアの兄ジャン=ジャックの同棲相手のヴァレリー(ジャンヌ・バリバール)の2人に、同時に思いを寄せる。『二十歳の死』や『魂を救え!』では寓意性の強い物語の中に身を置いていた主人公だったがここでは一転してフランスの若者たちの恋、愛、人生の悩みを生き生きと切り取っている。教授に愛され、講師になったポールだったが、どういうわけかナタンにもラビエにも出世コースを抜かれ、29歳にして早くも人生の悲哀を味わっている。しかしポールは表向きそのことにあまり悲観的になっておらず、悩みを聞いてもらうよりも逆に相談に乗り、彼女たちのキャリア・アップを手伝い、時には大嫌いな男ラビエのペットの猿の死体処理も手伝うような優しい男である。ただその優しさと優柔不断さは表裏一体であり、優しさが罪にもなり得る。

 映画はシンプルな四角関係の物語ではない。腐れ縁の恋人エステルと彼が恋い焦がれるシルヴィアやヴァレリーの他にも、ポールの親友でシルヴィアの彼氏であるナタン、従兄弟のボブ、シルヴィアの兄でヴァレリーの彼氏であるジャン=ジャックなど彼女たちには既に別のパートナーがいて、その人たちの性格やそれぞれの人物造形を丁寧に煮詰め、主人公ポールとの関わり合いを1人1人精密にしっかりと描き分け、細部に至るまで一切手を抜かない。初期のデプレシャン作品では、登場人物たちは極めて高いコミュニケーション能力を有している。ジャンヌ・バリバールの悪魔の角や嘘、教室への侵入など常識外れの行動もあるにはあるが、彼らは常に仲間同士でディスカッションを好み、ソーシャルの中の個としての側面を十分に理解している。この登場人物たちの高いコミュニケーション能力と公共性に、一度だけ暗い影が差す場面がある。かつて高等師範学校時代に良好な関係を保って来た人物だが今は会いたくない人物として、ラビエという気難しい男が登場するのだが、彼は主人公のポールとは対照的に人とのコミュニケーションを好まず、猿だけを愛している。結局その猿は悲しい運命を迎えることになるのだが、翌朝のジョギングから突如ポールの精神状態がおかしくなる。恋愛映画としてはあまりにも唐突なあのジョギングの場面では、例外として活劇的なつなぎが用いられている。以降のデプレシャン作品を俯瞰すると、大変興味深い。
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