ちゃんしん

長い長い殺人のちゃんしんのネタバレレビュー・内容・結末

長い長い殺人(2007年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

なかなか面白い。
一つ一つが違った事件。
最初は関連性が無いように思えた一つ一つのことが、やがて繋がりだして線となり、事件の真相を浮かび上がらせる...。
何げないことに共通項があったり、最終的な利害がそこに見えていたりしてくるものなのだろう。
各事件を独立した話として点として描き、その点が線に変わる過程を丁寧に描き出していることは良かった。
原作は読んでいないが、宮部みゆきさんの作品に感じる奥行きの深さは、やはり凄いものがあるんだろうなぁ〜っと、感心してしまった...。
人にとって大事なものや意味があるものをしまうことが多い財布からの視点で伝えられている構成や、物語上で純粋な精神を失ってしまった大人たちが見せる狡さや汚さを無垢な子供の精神との対比を使って上手く表現しているところなどがあるからそう思うのだろう。
それを映画という映像作品にした監督さんや俳優陣も相当良い仕事していると思う。
家では怒鳴りつけていたはずなのに、自分の馬鹿息子が盗んだ財布の中にあった名刺を利用して恐喝をしてしまう母親、事件の真相自体には興味すらなく、ただただ視聴率を稼ぐ為のワイドショーとして報道することに価値を見いだす、自称真実を追求する報道番組のプロデューサーとディレクター、自身の人気取りの為にテレビ映りを気にしてひたすら入念な化粧を施すインタビュアー、ただただニュースの真相をエンタメの如く面白おかしく見守る人々。
親の期待が自分に向けられた結果、その方法の是非を問わずに自己の承認欲求を満たす為だけに事件を起こした殺人犯。
本当は万引きしたにも関わらず、嘘を纏い自分はもう大人だと宣言した女子高生...などなど、いろんなシーンで今の大人たちが持つ人間性の裏表や狡さや汚さや悪が普通のこととして描かれている。
爽やかさの裏に何かしらを感じてしまう塚田(谷原章介)と法子(伊藤裕子)、病気を患いながらも家族を思いやる思慮深い刑事の響(長塚京三)...、西田尚美や平山あや他、出演している俳優陣の演技も良かった。
最後のシーンにある響のセリフ、「人生ではいろんなことがある。良いことや悪いこと、辛いことや哀しいこともある。それを乗り越えてまっすぐに生きていくことが大人になるということだ。」というのがこの作品が伝えたかった主張そのものに違いない。
世の中に流されながらも物事の本質や善悪を見失わないものが、ほんと意味での大人であり、そしてそうした存在になることが大人になるということだ。
ちゃんしん

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