ちろる

東京画のちろるのレビュー・感想・評価

東京画(1985年製作の映画)
4.1
東京に住む人々を40年間見続けて、唯一無二のかたちで日本を表現した小津安二郎監督をヴェムヴェンダーズが追う。
家庭の緩慢な崩壊とアイデンティティの衰退を見つめた彼の作品はいかにして作られたのか。
笠智衆や撮影補助からのインタビューから読み解けたのは、小津の撮影は「瞑想」のようなものだという事。
意味をなすことばかり考えるクリエーターが多いはずだが、小津は切れ味のいいナイフのような、静謐さで人間の誰もが持つ毒を遠くから見つめる。
そして小津の美徳は墓の中に刻まれることもこの作品を見なければ知らなかった。

淡々と人々の何気ない生活の営みや生と死の現実を映し出し、そこに生まれる感情の揺らめきを見るものに対応させる。
真実は見る人のなかに映し出され、感じるものも時代によって異なる。
作り手の意識を限りなく空虚にして、
周りの人を魅了して情熱の全てを捧げさせる小津の魅力。
小津の作品はずいぶん観てきたけどもう一度見直したいと思った。
こんな愛に満ちた小津ファンのフィルターから見せられたら完敗だ。

小津を切り取りながら一方でこの作品が切り取るのは東京画。
切符切りの駅員さん
地下鉄の電光掲示板
スマホのない電車の中
山手線の窓から見える角海老(わかる人はわかるよね)
知らない映像ばかりでわくわくするテレビジョンの液晶画面には唯一の私の知るタモリ倶楽部のおしりオープニング!
近代化した東京は映し出され、小津が描いていた東京の映像が街中で見つけられないかすかな落胆があったのかもしれない。
しかしこの作品から随分時間が経った今見れば、これらも私たちにとってノスタルジーを感じるから今観るやことに一層の価値を感じた。
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