カラン

レッド・ドラゴン レクター博士の沈黙/刑事グラハム 凍りついた欲望のカランのレビュー・感想・評価

4.0
レクター博士のやつ。原作は『レッドドラゴン』であったが、タイトルにドラゴンは縁起が悪いと思ったディノ・デ・ラウレンティスが”Manhunter”とし、その邦題が『刑事グラハム/凍りついた欲望』となったが、鳴かず飛ばずであった。しかし、『羊たちの沈黙』(1990)が賞をとり大ヒットした際に、再販した本作は『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』という現在の邦題になったらしい。羊の成功を悔しがったディノ・デ・ラウレンティスは、『ハンニバル』(2001)の大ヒットでリベンジし、さらに2002年には『レッドドラゴン』を再度、映画化して、これまたヒットさせたらしい。

ということなので、不遇なのはマイケル・マンの本作なのであるが、なかなか面白い。盲人の女に眠らせた虎を撫でさせるのとか、エピソードとして優れている。おそらく本作は8mmを映写する場面が何度なく描かれるところから分かるように、窃視の物語である。犯人は犠牲者を見ている。犠牲者の殺害に至るまで窃視しながら欲望を募らせて、犯行に至る。この窃視の眼差しを強調するのが盲者の存在なのだろう。

盲者とセックスしてベッドに横たわり、女の手を自分の顔に乗せて、指の間から天井を見て、目を閉じる。母親に撫でられて安堵する小さな子供のような表情すら見せるのだ。

しかし、おそらくこの物語のスリラーやサイコホラーの核となるべき、こうした犯人の眼差しが、映画空間に偏在し始めて、しまいには鑑賞者が被注察感(自分が見られているという感覚)を抱くようになるほどには膨らませられない。つまり、すっかり怖くはならない。このように物語の核を映像として表現するのに失敗してしまっている理由は、やはり、煩雑だし、不要なものが多いということなのだろう。物語の本筋を深く辿れていない。こうした問題はマイケル・マンらしい問題なのではないだろうか。

盲人の女のエピソードを語りきれていない。また、レクター博士の役者は良いが、レクター博士を経由することで、変数が多すぎて、人物の関係性が映像として結集してこない。それぞれのエピソードがバラけているのである。せめてもう少し長尺にして、まったりやるべきだったのである。まあ、ディノ・デ・ラウレンティスのような輩が許さないのかもしれないが。

こうした人物の結集を映画的に描く際の正確さは、たぶんマイケル・マンは持ち合わせていない。後年の人気作ではかなり強引である。一回だけ観るにはそれでいいのかもしれないが。今話しているのは『ヒート』や『コラテラル』のことである。しかし、本作はそうした後年の不正確だが強引な人物の結集は見られず、もみくちゃになったままである。その分、後年の人気作とは違って、本作は何十回と繰り返し視聴してみても、その面白さはそれなりに持続するのかもしれない。

アクションの途中で、省略のような、コマが欠落したような、になる。2回かな。イオセリアーニも似たようなのがあった。わざとなのだと思うが、意図がわからん。


レンタルDVD。画質も音質も思ったより良かった。サラウンドはDTSの5.1chと、たぶんPCM5.1chが収録されている。DTSを選択。どーんと前に出てきたりはしないが、なかなか良い。
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