ガンプ

飼育のガンプのレビュー・感想・評価

飼育(1961年製作の映画)
-
・皮肉的な自然描写ーB29が飛ぶ神々しい光の空、村を外の社会から切り離す壮大な山々、村人を閉じ込める谷間、岩の上で太陽に焼かれながら歌う少年と田園風景ーが非常に皮肉的である。自然だけを眺めていれば美しく感じるものを、他責思考や風習や因習に歪められた人間のドラマが毒々しく汚い。
・「天皇」や「国」に対する自己犠牲的な忠誠を持たない現代人の私は当然、過去の「天皇制」や「家父長制」にひどく懐疑的であった。個人の判断を鈍らすそれらの制度が、日本人的な思想や習慣を形成していたと思っていた。確かにそういった部分も戦時にはあった、戦争で朽ちていく兵士たちは天皇や国のために死んでいくこともあった。しかしこの舞台となっている村では、そもそも天皇に対する現実感や実体が見たかぎり存在しない。言葉では国や天皇と言っているが、この村で戦争を感じるのは「墜落した黒人パイロット」「B29」の二つ以外はない。つまり戦争のために必要な精神、つまり「天皇や国のため」という精神上の目的がない。その目的に迫られた兵士たちとは違って、この映画の村人たちは個人の意思による判断という重荷を課させないために、天皇制や国への奉仕という理由をつけたのだ。異物に対して自己の判断で行動するのを諦め、判断基準を天皇制や国に求めた「日本人的」な村人たち。
帰省してきた女子高生、疎開してきた人、黒人を助けようとした兄弟は少なからず自己に判断基準を求めた。女子高生は、冒頭の黒人が連行されて来るシーンと、飲みの場で逃亡した少年がスケープゴートにされるシーンで、ゲロを吐いている。これは若い世代に生じている集団主義や排他主義などへの生理的な拒絶を表現しているだろう。
ガンプ

ガンプ