トムヤムくん

トランスアメリカのトムヤムくんのレビュー・感想・評価

トランスアメリカ(2005年製作の映画)
4.1
性別適合手術を控えたトランスジェンダー女性ブリーの元へ、男性だった頃に出来た17歳の息子が現れる。ブリーは自分が彼の父親であることを隠したまま共に旅をする。

良かった。まずブリーを演じたフェリシティ・ハフマンが素晴らしすぎる。彼女自身は女性の役者なのだが、声質や口調、体の動きなどによって、男性から女性になる過程を見事に演じきっている。何も知らないで見たら「元々男性だった」と言われたら信じてしまうかもしれない。その上で、自分が父親であることを隠す役なのだから、演じるのがとても難しかっただろうなと思う。

また、この手のロードムービーは基本的に人と人との温もりを得られるものが多い印象なんだけど、この作品はむしろ差別や偏見を目の当たりにする展開が多くて苦しくなった。息子は息子で複雑な事情を抱えているので尚更…。最後までとにかく揉め事ばかりでつらすぎた。

それに彼女にも息子にも、全然味方がいないからアメリカン・ニューシネマ的な最悪のオチばかり想像してしまっていた。(途中から家族も出てくるけれど、みんな家族だから…という感覚が残っているだけで、一人の人間として味方してくれているわけではない感じがむず痒かった)。

その結果、望んでやった性転換なのに、女性になった感想が「トゲだらけの太い杭に体を貫かれた中世の異教徒みたい」なのがあまりにも悲しすぎる。女性になりたくてなったのに、素直に心の底から喜ぶことができない世界ってなんなんだろう。ハッピーエンドとバッドエンドが共存するラスト数十分、とてつもない負の感情の渦に襲われた。