みやび

トリコロール/赤の愛のみやびのレビュー・感想・評価

トリコロール/赤の愛(1994年製作の映画)
4.8
あなたの「愛」は何色ですか。

トリコロール三部作の最終章となる本作のテーマは「博愛」

博愛の心を持ち、それを信じていながらも、不安や不信がつきまとう女性。
正しい判断を下し真実を明らかにすることを仕事としながらも、人を信じることをやめてしまった初老の男。

この2人が出会うことにより、互いに影響を受け変わってゆく物語。
愛だけが真実を語り、長く閉ざされていた心の扉を開くことができる。

すべてを包み込む無垢な愛。

緊密な心理劇としての「青」
社会派コメディともみえる「白」
自由や平等にも勝る博愛の成り立ち難さを厳しく描きつつ、鮮やかに愛の居場所を見出していく「赤」

周りを拒絶する「黒」、死や夜の闇の「黒」、信じる心を失った「黒」

「青・白・赤」の3色全てに調和できる配色は「黒」以外にない。
鮮やかな色の裏には抱え込んだ黒がある。
美しい色彩は心の色の現れでもある。

3つの物語の中で様々な愛に生きた登場人物達が悪いめぐり合わせによって見事に絡み合うラストは、キェシロフスキ監督が生涯をかけて描き続けた「運命」と「偶然」そして、それらをも超える「愛」についての集大成となっている。

「現実の人生を生きたい、現実の人生は私たちが創り出す虚構の人生よりも大切だから。」と「赤の愛」を最後にキェシロフスキ監督は引退を宣言した。
そして96年に心臓発作により54歳という若さで亡くなってしまう。

彼の遺作となってしまったトリコロール三部作は彼が一生をかけて培った「愛」が詰まっていると言える。
そんな永遠の三部作は、キェシロフスキ独特の繊細で美しい脚本と映像で今でも多くの人を魅了し、心に問いかけてきてくれている。
彼は映画という虚構、幻影の世界に、決して見えるのことない大切な何かを託したのだろうか。
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