彦次郎

プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーンの彦次郎のレビュー・感想・評価

3.5
友人のトリッキーと銭稼ぎにフランスのリゾート地リビエラにやってきたピアノ弾き(というよりジゴロ)クリストファーがカモである造船王の娘マリーに近づくうちにお互い惹かれあい真実の愛に目覚めるロマンティックラブコメディ。
造船王の親父の妨害工作で燃え上がるも悲劇が待ち受けるという古典的な筋です。古典というのはある意味普遍性がありますが、そういう意味からなのか全編モノクロという異色ぶり。個人的にはトリッキーとのやり取りや下宿の女の子との会話とか殿下らしさが楽しかったです。
監督・主演・音楽はプリンス。相変わらず自己悦に入っている感は否めませんが前作『パープルレイン』で青春歌謡ドラマから2年くらいで一転しヨーロッパ恋愛ドラマにシフトチェンジする自己変革ぶりは流石です。この変化に当時の世評もついていけなかったのか、ゴールデンラズベリー賞のうち最低作品賞・最低主演男優賞・最低監督賞・最低助演男優賞・最低主題歌賞を受賞、最低助演女優賞・最低脚本賞・最低新人賞ノミネートという快挙を成し遂げています。ちなみに本作公開である1986年は『上海サプライズ』でマドンナが最低主演女優賞を受賞という一奇でした。音楽家は映画に手を出すなという警告のようにも見えますが、冒頭からネタバレありでマリーがクリストファーにひとめぼれするところ(令嬢がドラム演奏するのも)の強引さやマリーをさらった後も微妙な空気になったりしている等、所謂当時の見識者たちが判断されたのも無理からぬことです。
それに最低助演女優賞にノミネートされているクリスティン・スコット・トーマスが後年『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー賞主演女優賞ノミネートされているのでラジー賞もそのくらいのものだということでしょう。
プリンスファンならばツッコミどころに対しては「プリンスだから」ということで受け入れられますが、やはり前作がライブ映画の面も強かったのに対して本作は音楽がそこまでメインでないため前作ほど音楽が内容にマッチしていなかったようにも思われます(決して音楽が悪いわけではないので誤解なきよう)。
その音楽ですが本作のサントラアルバム『Parade』は名盤(主題歌のLove or Moneyは未収録)として映画と反して評価が非常に高く(プリンス本人は失敗作と言っている)特にプリンスが逝去された2016年4月と『Sometimes It Snows In April』とのリンクぶりは胸が締め付けられる寂しさでした。そういった理由からも「駄作」と一蹴すべき作品ではないと思います。
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