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テザ 慟哭の大地のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

テザ 慟哭の大地(2008年製作の映画)
5.0
【ハードコアな『ブルックリン』】
エチオピアと聞くと何を浮かべるだろうか?地理専攻だと、人類の古をエチオピアから感じ取るだろう。政治専攻とかだと、最貧困とかコーヒーのイメージを抱くだろう。どちらにせよ、現代文明から隔絶された印象を受ける。

また、シネフィルや映画評論家はフランス映画、アメリカ映画、中国映画は国ごとにラベリングするのに対してアフリカはアフリカ一纏めにしがちである。そして、文明とは隔絶された異次元の映画を物珍しげに褒めがちだ。数年前、アフリカ映画を観漁っていたブンブンも結局のところ、国ごとの特色は把握できず、かといってアフリカ映画監督の作家性を見分けることはできなかった(セネガル映画くらいはしっかり分析したかったなー)。そんなブンブンに怒りの雷か!エチオピアの凄い作品と邂逅し猛省した。

『テザ 慟哭の大地』はあっと驚くショット、文明と隔絶された土地と都会、海外との対比により、非常に高度な社会批判を魅せてくれた。

本作は言うならばエチオピア版『ブルックリン』だ。『ブルックリン』では、何故留学帰り、海外帰りの人は「かぶれているのか」という謎を解明した作品。留学した人ですらまともに語れていない視点と、「かぶれ」の先に待つ二重のアイデンティティの確立の美しき世界を魅せてくれた傑作だ。

このシチュエーションがエチオピアに移るとハードなものへと変わる。貧しき国エチオピアの代表としてドイツに青年は渡る。留学先で、黒人女性が差別を主張し、白人のルームメイトとバトルをする。浅くて主観が強すぎる喧嘩に青年は辟易する。彼は知識を得て、エチオピアの政治がよくないと思い活動するのだが、ドンドン疲弊して負傷してしまう。トラウマを抱え、挫折を抱え、村に戻ると、彼の知識は一切通用しない。悪魔に取り憑かれたのではと水をかけられたり、よそよそしく彼を避ける。エチオピアという国全体も変えることができなければ、村一つ救えない。エリートだが、何もできずにただ路傍の石として存在するだけの青年のアイデンティティが崩壊する過程を彼の心の視点で描いていく。

だから過去、現在が入り乱れ、観客は浮遊する物語に錯乱する。2つの国のアイデンティティを持った者は誰しも『ブルックリン』のように2つの故郷を持てるわけではない。1つの故郷すら持てないのかもしれない。まさしく、どんづまったエチオピアの慟哭に動揺されっぱなしな一本でした。
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