垂直落下式サミング

スポンティニアス・コンバッション/人体自然発火の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
「マニア向け」なんていう排他的な言葉を軽々しく使いたくはないのだけれど、つとめてある程度のジャンル的な教養を持っていることが要求されるであろうオカルト系作品。
人体が燃えるシーンは、もう発火とか燃焼とかのレベルじゃなく、炎柱が噴出したり、火だるまになったりと、なかなかに派手。これを観ると、炎の表現は下手なCG作画よりも、特撮による合成の方がリアリティがあるなと思ったりしたのであった。
超常現象が起きる。自然発火能力は科学的に解明されたから、軍の実験で超能力兵士を作りましょうかと、ちょっと待てと言いたくなるような前提で話が進み、細かいこと気にすんなfollow me!と前に前に進んでいく。
物語に、観客はグイグイ引っ張られていくしかない。そんななので、なんか、終盤ごちゃごちゃして最後は勢いで持っていくお馴染みの感じに帰結していくが、原発メルトダウンはやりすぎ。
トビー・フーパー先生は、ホラーの巨匠などと呼ばれるが、神がかった天才だった時期はそれほど長くない。『悪魔のいけにえ』一作で、とことんまで磨り減って、そのあとずっと苦しんでた作家だというのが最近わかってきた。
一本デカく当てることには、当然ながら才覚も運も必要なんでしょうけど、とてつもないのを世に出してしまったばかりに、後が続かなかった表現者は珍しくなくない。
『スターウォーズ』に人生を狂わされたジョージ・ルーカス。『機動戦士ガンダム』から逃れられない富野由悠季。『ドラゴンボール』以降は漫画が嫌になってしまった鳥山明。そして『悪魔のいけにえ』という十字架を背負い続けたトビー・フーパー…。
巨大すぎる一発を経験した作家は、才能を無惨なまでに削り取られてしまう。1989年の時点で、すでに燃え尽きて灰になりかけてたんだと思えば、めちゃくちゃ雑な理解で本多猪四郎の反核をやってきても、まあ許せるわけよ。