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ソナチネのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ソナチネ(1993年製作の映画)
4.4
 青いエンゼルフィッシュにもりが刺さった奇妙なオブジェ、北島組傘下の村川組組長の村川(ビートたけし)と組員のケン(寺島進)は、賭け麻雀で収益を上げる金本(水森コウ太)の店へ法外なみかじめ料を要求していた。村川がシマを持つ南口には地下鉄が開通し、みかじめ料だけで相当な収益を上げているが、彼らの表情は一向に晴れない。北島組組長の北島(逗子とんぼ)と幹部の高橋(矢島健一)はある日、村川を呼び出し、ある提案をした。沖縄の友好団体・中松組が、敵対する阿南組と抗争になったという。その仲裁と手打ちの算段を2人は村川に求めるのだった。北海道の手打ちで3人が死んだ現状を踏まえ、村川組幹部の片桐(大杉漣)は危険ですよと進言するが、村川は顔色一つ変えない。北島組幹部の高橋をトイレで締め上げると、今度はみかじめ料を拒む金本をクレーン車に縛り付け、脅す。「2,3分沈めたら死ぬかな?」村川は片桐と不毛な会話を交わしながら金本を締め上げる。その表情に死への配慮は微塵も感じられない。「ヤクザ辞めたくなったなぁ」とケンに呟く村川は、明らかに罠である北島の頼みを引き受ける。戦力にもならない助っ人を数人押し付けられた村川は沖縄へ向かう。沖縄では中松組幹部の上地(渡辺哲)と組員の良二(勝村政信)の歓待を受けた村川たち一行は、明らかに目立つ一等地のアジトに居を構える。

 平穏な東京での日常から突如、沖縄での非日常に巻き込まれる姿は『3-4x10月』の雅樹(柳ユーレイ)と和男(ダンカン)と同工異曲の様相を呈す。だが村川は一行の末尾に加わることになる津田(津田寛治)を恫喝する。村川にとってこの旅は、最初から自殺志願者たちの自暴自棄な行程になることを理解している。そこに帯同する津田はまだこれから生を謳歌する年頃であろう。実際に村川の周囲には当初から死臭が漂う。上地と良二の歓待を受けた村川たちの表情は硬く、ワゴンに乗った時点から生気をまったく感じない。事実、彼らの仲間は予期せぬヒットマンに狙われ、命を取られるのだが、彼を弔う村川たちの行脚を追った夜間のロング・ショットが極めて強い余韻を醸す。夜間にシルエットの浮かび上がった村川たちが彼を弔った次の瞬間、舞台はからっとした晴天の沖縄の海辺へ劇的な転換を果たす。ヤクザたちが着替えるアロハシャツの違和感と村川がただ1人着る白いYシャツの対比、紙相撲のようなコミカルな動きを見せる構成員たち、月明かりに照らされた村川は夫(神田瀧夢)に犯される幸(国舞亜矢)の姿を見て躊躇なしに手を下す。阿南組の事務所で爆発しなかった爆弾、広い道路で脱輪した青い車、突然の大雨で髪に付けたシャンプーなど、幾つもの事象は今作が脱線に次ぐ脱線を経て、終幕に向かうことをあらかじめ予期しているようにも思える。ロシアン・ルーレットで右のこめかみに押し当てた村川の狂気の笑みは、来たるべき死の瞬間まで男を狂気の渦へとただひたすら駆り立てる。クエンティン・タランティーノの92年作『レザボア・ドッグス』と並び、今作は90年代に臨界点に達した「暴力の彼岸」をあらためて世界にアピールし、世界のキタノの誕生を決定付けた。
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