ドント

それいけ!アンパンマン とべ!とべ!ちびごんのドントのレビュー・感想・評価

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 1991年。世界に雨が降るのは竜(ドラゴン)が天へと昇るから、とされている世界。緑の宝玉を抱く竜の島には飛べない小さなドラゴン、ちびごんが住んでいた。そこに「宝玉の力で世界中に汚れた雨をばらまく」と言う悪辣な輩が侵入、ちびごんは島から海へと流れ出てしまうが、アンパンマンに助けられ、人々と交流を結びながら空を目指す……
 飛べないちびごんに「勇気を出してやればできる!」「君なら飛べるよ!」とアンパンマンが一切の躊躇なしに言い切るのが、子供向けアニメだからこそ可能な全肯定の力に満ちていて素晴らしい。一方で大いなる力を担わされていながら空が飛べないちびごんの弱気、屈託や、周囲から無邪気に「ドラゴンなら飛べるんでしょ?」と問われる苦しみも描いているのがとてもよいと思う。背負ったランドセルの重さによろけながら走ってくるちびごんのシーン(この直後「飛べるんでしょ?」と聞かれてスネる)なども見事ではないか。
 そのようなドラマへの配慮もしつつ、ちびごんを主軸に据えると旅立ち→試練→帰還 と神話的構造も踏襲しているあたりがグッと強度を上げている。また、真の竜と化したちびごんは神として人の世を去らねばならないことまで語ってある(新たな旅立ち)。空の向こうに去ったちびごんには、我々は「いつかきっとまた会える」と思いを馳せることしかできない。
 ばいきんまんの悪行は毎度のことながら思想性のないエゴイズムに満ちており、問題を起こす装置の枠を越えていっそ生き生きとしている。「世界にばいきんの雨を降らせたい、ので、やる」。このシンプルさ。見習いたい。深い理由はなしに赤いペンキを吹き出すマシンで島を汚しまくるのだが、後半これが「島中赤く汚れた、清流も真っ赤になっている」というシーンに繋がる。単純に禍々しいし、住民はふたりきりながらも島を乗っ取っているわけて、侵略や虐殺の暗喩としても成立している。相当にキレた演出だと思う。
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