都部

リンクの都部のレビュー・感想・評価

リンク(1986年製作の映画)
3.6
動物を恐怖の対象として描く作品と言われて、ヒッチコックの『鳥』よりも直近のジョーダン・ピールの『NOPE』やジョジョの奇妙な冒険第三部の『フォーエバー』を想起する身としては、アニマルサスペンスは馴染みが深いとは言えないジャンルでしたが、思っていたよりも完成度の高い映画で普通に面白かったです。どうやら後者の元ネタらしいですね。

実際の動物を調教して演技をさせていることが作品の全体的な妙に繋がっていると感じられる本作。ある意味で主人公と言えるリンクの味わい深い表情の数々と支配関係から解き放たれた獣性による暴力が、彼の恐怖の対象としての格を大いに引き上げていて、知能が高く人間の言葉を理解しているのに対話や交渉がおよそ不可能と感じられる この力関係の逆転が予断を許さない緊張感を産んでいるのは見事でした。

人とチンパンジーの違いは1%しかない──作中序盤でそんな言説が語られる一方で、生物としての自由意志はあえなく無視され殺処分の判断を下される。それに対する彼の怒りや老いらくの恋とも言うべき女学生に対する一方的なロマンスの香りなど、その凶暴性を描きながらもそうするしかなかった哀しき存在として捉え続けていたのも印象ですかね。

周りに家もなければ人もいない陸の孤島で、その気になれば自分を殺しかねない放逐されたチンパンジー三匹との同居に慣れ親しみすぎだろというツッコミもまあありますが、教授の失踪や来訪客に対しての洗礼を目にする中で次第にその凶暴性の行使に勘づいて、自分が"詰み"の状況に追い込まれていることをジワジワと自覚させられていくのは正にサスペンスです。緊張感を持続させながらも間の抜けたカットや演出を交じえてくるダサ格好よさも本作の味ですが、ひょうきんさが一瞬で殺意に変換される作品の性質を考えると計算づくの撮り方なのかもしれない。

二度存在する最高の終盤のシークエンスはどちらも切れ味が抜群で、衝撃のラストも好ましく思いましたが、炎のシーンのあの虚しい全能感が空回ってる感じ そう捉えるような引きの画がかなり好きなんだよな……。
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