空海花

飛行士の妻の空海花のレビュー・感想・評価

飛行士の妻(1980年製作の映画)
3.9
「喜劇と格言劇」を1作目から改めて。

片思いの青年の恋の顛末を描く、みずみずしい都会の恋愛喜劇。
音楽はジャン=ルイ・ヴァレロ。
ラストシーンの挿入歌『パリは私を魅了した』を歌うのはアリエル・ドンバル。

フランソワ(フィリップ・マルロー。彼は当時パリ第三大学の学生だったらしい)は郵便局で夜間のアルバイトをしているが、
仕事帰りの早朝、年上の恋人アンヌ(マリー・リヴィエール)のアパートの前で、彼女が元愛人であるパイロットのクリスチャン(マチュー・カリエール)と一緒のところを見てしまう…
その後アンヌとは喧嘩になり、何も手につかない中
カフェで女連れのクリスチャンを見かけたフランソワは思わずその後を追ってしまう─

この偶然は『偶然と想像』みたい。
途中バスで目が合った女の子リュシー(アンヌ=マリー・ムーリ)と尾行を続けることになるが
この公園のロケーションが素敵で
ここで交わされる会話も面白い。
ヌーベルヴァーグ的な進行。
尾行や盗み見という映画的手法。
後ろめたい、だが目が離せない思いを観客も一緒に味わうことになる。
この間にある種の想像が働いている。

アンヌとフランソワはどちらも傷心。
会って話しても話はちぐはぐ。
だが言葉をぶつけ合っているうちに穏やかさを取り戻す。
こんな微妙な空気感をどう脚本に表すのか。
アンヌはフランソワのことを好きなようには見えず、なぜ付き合っているのかわからない。
こういうのこそ恋多き女というのか。
フランソワが気の毒になるが、彼は彼でイケてはいない。

“人は必ず何かを考えてしまう”
フランソワも、おそらく観客もその続きを想像するが、
それは呆気ない幕切れをする。
ちょっと意外性があるロメール作品。
当時エリック・ロメールはヌーヴェルバーグの指導的立場にあったそうで。
そんな中のシリーズなのかなと。

飛行士をパイロットと訳さないところが良い。


2021レビュー#223
2021鑑賞No.456
空海花

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