このレビューはネタバレを含みます
「今世界には5億5千万丁の銃がある。ざっと12人に1丁の計算だ。残る課題は、"1人1丁の世界"」
幼少期にウクライナから亡命し、アメリカで武器商人となった男の物語。ただの貧乏人だった人間がソ連やリベリアを飛び回り、世界を股にかけて活躍するフィクサーとなっていく。
あまりにも悲しい傑作だった。社会派の作品であり、"悪の才能"を持ってしまった人間の悲劇でもある。「14歳が撃つ弾も40歳が撃つ弾も同じ」など、マジで名台詞のオンパレード。この作品を観て、考えさせられない人間はいない。
序盤は主役のニコラス・ケイジが、天賦の商才を活かしてピンチを乗り切りまくる場面が良い。ソッコーで船名を書き換えてオランダ船を装うくだりや、アフリカで飛行機を緊急着立させて武器を子供に配りまくって証拠隠滅するくだりは痺れた。
後半は彼がどんどん大事なものを失っていく過程が描かれ、弟が薬物中毒になって撃たれて死んだり、何も知らない妻のもとに警察が訪れたりする。ソ連の叔父を車で爆破するシーンはゴッドファーザーを彷彿とさせた。リベリアの大統領と一緒に商売敵を射殺して、初めて殺人者になってしまうシーンは映画史に残る"はじめての共同作業"だと思う。
後半のキツさはギリギリ耐えられるレベルだったけど、妻に自分の武器倉庫がバレて、パスポートの後に絵(妻が描いたけど無理やり画商に買わせたことにしたやつ)が見つけられてしまうシーンは本当にキツかった…。
「It’s not our business (我々には関係ない)」をこれほど正しい意味で使った映画はないんじゃないだろうか…。善人は死に、悪人ほど長生きするというテーマを皮肉に描いた傑作。こんな悲しい才能を背負ってしまった主人公は見たことがない。
以下、セリフメモ。
「リトル・オデッサで殺人は日常茶飯事だ」
「相棒が要る。お前はシェフに向いてない。タダでも食いたくない味だ」
「フランス国旗を使う。縦にすればオランダだ」
「頼む…最後に…(コカインを吸わせてくれ)」
「破産覚悟の嘘だった。自家用機で"落ちる"女ではないと知りつつも…」
「ソ連崩壊!ゴルビーの英断だ!ついに冷戦が終わった!」
「用心しろ。銃に殺される。内面を」
「東西が憎み合った45年間は、歴史上最大の兵器生産時代だ。ソ連もせっせと武器を作り、蓄えた挙句、敵は消えた」
「冷戦終結は熱い商戦の始まり。武器バザール開幕」
「同胞を殺す銃さえうるのが国際派だ」
「武器商人が戦争へ行くと──戦闘が長引いて困る」
「冷戦後、カラシニコフはロシア最大の輸出品だ。次いでウォッカ、キャビア、絶望作家…。もう車を買う行列はない」
「軍用じゃない。救助ヘリだ。法が味方だ」
(取引先が部下を撃ち殺したのを見て)「何を!…使ったら最後…中古だ!」
「中古か…ハハハ面白い」
「父親がこれなら息子も推して知るべし。似たもの親子だ。"果実は木のそばに落ちる"。彼も残虐で、まだ脈打つ犠牲者の心臓を食べると噂されていた」
「ランボーの銃を」
「パート1?2?」
「1だけ観た」
「M60か」
「私がエイズなら?平気?」
「10年後に死ぬ病気がなぜ怖いの?今日死ぬかもしれない世の中よ」
「これがカラシニコフ隊。我が少年旅団だ。14歳が撃つ弾も40歳が撃つ弾と同じさ」
「ダイヤは西アフリカの通貨。流血の対価ゆえに"血のダイヤ"とも呼ばれる」
「妻の内心は分からなかった。高価な宝飾の出どころを彼女は決して聞かない。聞きたくないのだろう」
「武器売買は素早さが命。戦闘がやめば銃は不要。平和は大損害をもたらす」
「さあおいで!遠慮するな、無料サンプルだ。友達にも教えてやれ。自由に持っててくれ、全部タダだ!銃だよ。いらっしゃい。銃に手投げ弾、全部持ってけ、そうだ箱ごと!」
「法を盾に取るなら私も24時間拘束の権限を行使する。お前と一緒にいたいからじゃない。全然違う。お前から1日奪うんじゃない。罪のない人々に、生きられる1日を与えるんだ」
「では一緒にやろう。これこそ深い、共有体験だ」
「"ブラウン・ブラウン"。コカインと火薬です。一度はお試しになるべきですよ。あなたの火薬ですから」
「"ブラウン・ブラウン"は初めてだ。まぁ殺人も初めてだが…」
「白人に聞いてみたら?手はまた生える?」
「私は呪われてる。"無敵"という呪いだ」
「(夫人であるあなたの)ご両親は殺された。武器商人から違法で銃を購入した犯人に」
「もう十分じゃない」
「金じゃない」
「じゃあ何?」
「…才能だ」
「つまり…そう生まれただけなのね」
「すべてに失敗してきたわ…。でも、人間失格は嫌」
「妻という武器は堪えた。私は半年間銃取引をやめた」
「こうなっては我々も…(ダイヤを渡して)気前が良くなる」
「ランボーの銃がまだだぜ」
「私は必ず尾行を見抜けるが、これは想定外だった。ショックだったろう。暗証番号が妻のものだったならまだしも、まさか息子のだとは…。息子の誕生日が'虐殺"の証拠を暴いた」
「"意あれば銃あり"。金はどこだ?」
「銃を渡せば彼らが死ぬ。ニッキーくらいの子供たちだぞ」
「我々には関係ない」
「取引に夢中で弟の心を読めなかった。いや、一度も読めなかったのかも…」
「弟は商売の鉄則を破った。"自ら戦ってはならない"」
「神が見捨てた国の指導者と、私は今や同類だ。互いに嫌悪を抱いてる。鏡を見てるようだ」
「ケチりすぎた。武器密輸のプロが、遺体に残った1発の弾で捕まるとは…」
「人生の悲劇は2種類。夢破れることと、叶うことだ」
「息子"たち"は死んだわ」
「お前の奥さんのおかげで宝の山を発見した」
「…予言してやろう。心の準備ができるように。ドアがノックされ、君は表彰され昇進するだろう。そして私は釈放される」
「容疑そのものが釈放理由だ。私は残虐な独裁者たちと仕事で付き合ってきたが、そのは何人かは、君たちの敵の敵だ。最大の武器商人は君のボス。合衆国大統領だり輸出量は1日で私の1年分。証拠が残るとまずい取引もある」
「私を悪と呼ぶのはいい。だが君たちにとって、必要悪なんだ」
「地獄に堕ちろ。いや、もう堕ちてるか…」
「釈放に感謝するどころか感謝されたいくらいだ。そうとも。"彼ら"に私が必要だから釈放したに過ぎない。ともあれ私は天職に戻った」
「世界を受け継ぐのは武器商人だ。他は殺し合いに忙しい。生き残る秘訣は、戦争に行かないこと。特に自分からは…」
「最大の武器供給者は米・英・露・仏・中である。この五ヵ国国連安保理の常任理事国でもある」