ちろる

醜聞(スキャンダル)のちろるのレビュー・感想・評価

醜聞(スキャンダル)(1950年製作の映画)
3.9
黒澤明監督の描く人間ドラマはグサッと観ているこちら側の心もえぐる。
程度の大小はあれど、人間は多少の罪悪感を抱えて生きている。
大切なものをどこに置くかによって、それに外れた人間たちを傷つけずには生きていけないからややこしい。

山で偶然出逢った三船敏郎演じる画家と、有名な歌手のラブスキャンダルから始まる物語。
本当は何もないのに執拗に追い回され、ロマンスを掻き立てられる煩わしさは一般人には
理解しようもないが、この頃のマスコミのしつこさといったら凄かったのだろうな。
SNSの発展と共に私達の生活は常に見ず知らずの人間に晒されるようになったけれど、それよりもずっと昔、ジャーナリズムという名のもとにマスコミのゲスい仕事は、まだ数少ない有名人に集中して、まともな生活さえも脅かされる。
新聞に書かれてしまえばそれは嘘でも誠になる言論の自由という名の元の暴力は有名人にとって耐え難い。

この作品のすごいところは「醜聞」とタイトルに出しながら、本軸がはそこではなくてこの対マスコミと戦う弁護士の物語にいつのまにか移り変わってしまうところだろう。
天使のような結核を患う弁護士の娘(善の象徴)を守るために志村喬演じる弁護士は悪に手を染め、三船敏郎&山口淑子の潔白を無下にしようとする。
しかし弁護士 蛭田も単に娘を愛する優しい父親で悪ではない。
清廉潔白すぎる娘と画家、歌手の3人に次第に押しつぶされていく苦しみが人間の誰もが持つ弱さであり強さでもあるのだと教えてくれる。
黒澤映画にしては比較的短く、シンプルではあるが今の時代にも、いや今の時代だからこそリアルに伝わる作品でもある。
ちろる

ちろる