えびちゃん

パリ、18区、夜。のえびちゃんのレビュー・感想・評価

パリ、18区、夜。(1994年製作の映画)
4.5
いきなり余談だが、横浜黄金町の映画館で観た。黒澤の『天国と地獄』のスラム街がこの町だったと記憶しているのだけど、作品に映るパリ18区の雑多な雰囲気と猥雑でちょっとアングラっぽい黄金町の雰囲気がとてもよく合っていた。こじんまりしてうすら汚い(スミマセン)映画館はなんだか懐かしくてとても好きになった。遠かったけどここで観られて良かった。

ペレストロイカの影響でリトアニアから車一台でパリへ逃げてきた役者のダイガを中心とした、マイノリティの集まるパリ18区でのにっちもさっちもいかない人たちの群像劇。なんという孤独、なんという悲哀。彼らの境遇に共感できる要素や慮るだけの経験がほとんどないというのに、まるで友人のように孤独や悲しさ、苦しみが伝わる。愛している人を大事にしようとしているのに他の人を犠牲にしたり、愛しているのに傷つけたり、こんなはずじゃなかったのに、という上手に生きられない息苦しさが充満している。
色づかいがすごく良くて。古ホテルでぼうっとタバコをふかすシーンやネオンの影で眠るシーンとかいちいち胸を突いてくる。後から画像検索して気づいたのは青いフィルター、昼間の明るさ、赤いフィルターでトリコロールを表していたこと。
ゲイクラブでのパフォーマンスシーンに完全に心を撃ち抜かれた。思わせぶりに壁に手をつくところがドエロい。そして歌詞が、カミーユと恋人を表しているようで悲しい。
https://youtu.be/MMcBEOvxXj4

このお話は芥川龍之介の『羅生門』のようだと思った。(もちろん黒澤ではない。)
老婆からむしり取った髪を手に夜闇に消えた下人は京都洛中に入り込んで行ったことは羅城門ではなく【羅"生"門】というタイトルから明らか。リトアニアからパリに"生きる"ために逃げてきたダイガと羅生門の下人が重なる。生と死の境い目パリ18区。地獄となるか、天国となるか、片道切符を手にしたダイガはパリから出て行かないだろう、そんな気がする。
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