ヒロ

紙の花のヒロのレビュー・感想・評価

紙の花(1959年製作の映画)
4.7
名声を得れば蜜のように甘い世界、それを失えば毒のように苦い世界、虚言と贋物で飾り付けられた華のある映画界、いや栄華界。その儚さ故の美しさをたったの三文字『紙の花』というタイトルで表現してしまうセンス。新しいものに金の匂いを嗅ぎつけ群がる今で言う製作委員会、そこで搾取され続ける監督の才能、それを消費する観客の好奇心、徹底した商業至上主義に対する絶望と皮肉。或る者は階段を転げ落ち、また或る者は頂点まで駆け上がる。y=xとy=- xの点対称であり線対称シンメトリーな両者の交点は原点のみ、そこはゼロの焦点。誰もが知る名監督は家なき浮浪者に、誰も知らなかった名もなき薬売りは名だたる大女優へ。出逢いは見下ろす男と見上げる女、別れは見下ろす女と見上げる男、物言わぬ破壊的な2カットがこの映画の全てを物語る。グルダッドとワヒーダレフマンが成瀬巳喜男『乱れる』の高峰秀子と加山雄三の姿にダブる決して目を合わせない室内での再会シーン、ネロが天使に連れられ昇天するフランダースの犬の例のあのシーンが拝借しているとしか考えられない崇高なスタジオでのラストシーン、怒涛のラスト30分は覚えていてもしっかり号泣。そしてこの映画が完成したあと、監督グルダッドはまるで現実でこのプロットを再現するかのように自らの命にもピリオドを打つ。映画に生きて映画に死す、自決を決め込んだ上で撮ったかのような潔さがなんとも言えない哀しみをこの映画に宿していた。見たかララランド、これが正解だ。

今回で3度目の鑑賞だがこんな大傑作を映画館で観れるという幸せ、レアな上映と引き換えに人として大事なものを失っているような気がする毎回高い代償を払わされているような気がするアテネフランセで涙を流したのは初めてだった。
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