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ナイト・オン・ザ・プラネットのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.0
 ロサンゼルス午後7時7分、映画のキャスティング・ディレクターのヴィクトリア・スネリング(ジーナ・ローランズ)はタラップを降りてタクシー乗り場へと向かう。エージェントへ電話連絡するものの、キャスティングはあまり進んでいない。彼女は若い女性タクシー運転手コーキー(ウィノナ・ライダー)に依頼し、ビバリーヒルズへと向かう。ニューヨーク午後10時7分、真冬の街角でヨーヨー(ジャンカルロ・エスポジート)はブルックリンまでのタクシーを拾おうとするが、繁忙期で誰も止まってくれない。ようやく止めたタクシーの運転手ヘルムート・グロッケンバーガー(アーミン・ミューラー=スタール)は不慣れで、仕方なくヨーヨーが運転する羽目になる。パリ午前4時7分、カメルーン大使に会うというVIPを乗せながら、運転手のイザック(イザック・ド・バンコレ)は苛立っていた。彼らを強引に車から降ろしたツキのない運転手は、若い盲目の女(ベアトリス・ダル)を乗せる。ローマ午前4時7分、一方通行の道路を我が物顔で逆走するジーノ(ロベルト・ベニーニ)は教会前で神父(パオロ・ボナチェリ)を乗せる。下劣な会話を矢継ぎ早にまくし立てるジーノの姿に、神父は心臓麻痺を起こす。ヘルシンキ午前5時7分、配車依頼で雪の積もる路地に現れたミカ(マッティ・ペロンパー)は3人の酔っ払いを乗せる。人生最悪の日だったと話す乗客(カリ・ヴァーナネン、サカリ・クオスマネン)と今日会社をクビになった泥酔の男アキ(トミ・サルミラ)の住む家へと向かう。

 今作は世界の5つの都市で同時刻に起こった物語を纏めたオムニバス形式の作品である。『ダウン・バイ・ロー』のジャックとザックのように、タクシーの中という狭い密室空間、偶然そこに居合わせた2人が運転手と乗客の仲を越えていく。これまでのジャームッシュ作品が、絵画のような引きの絵を中心にしていたのに対し、全5話総勢13人もの俳優たちはクローズ・アップで撮影され、向かい合い、相対することのない2人は同じ方向からカメラが回される。それぞれの都市は冬の夜の景色の中で、路地裏のレイヤーの違いを鮮明にする。ニューヨークとヘルシンキは凍てつくような寒さを讃え、ロスの景色は少し湿っている。決して観光都市案内のような紋切り型の都市ではない。ここに映っているのは処女作『パーマネント・バケーション』のようなうらぶれた路地裏であって、国道や大通りでもない。実際に各都市を巡った者からすれば、映画の道順はカー・ナビが指し示す正しい道順ではなく、ジャームッシュらしいアンダーグラウンドへ深く深く潜行する。『ダウン・バイ・ロー』以来のロベルト・ベニーニの怪演も素晴らしいが、どの都市の挿話も魅力がある。その中でも私は特にロサンゼルス編とパリ編を強く推す。ジーナ・ローランズの圧倒的な佇まいに相対する90年代最強のヒロイン・ウィノナ・ライダーの「ジェネレーションX世代」を代表するような達観した目、コートジボワール移民の蔑みにも一切怯むことのないベアトリス・ダルの凛とした存在感、グローバル経済前夜の物語ながら、今作はディスコミュニケーションという現代病への可笑しな風刺に満ちている。
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