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キル・ビル Vol.2の海のレビュー・感想・評価

キル・ビル Vol.2(2004年製作の映画)
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ザ・ブライドが、ゴーゴー夕張との決闘の最後に見せたあの表情と、ビルとの再会の瞬間に見せたあの表情が、わたしの中でどうしてかものすごく重なり、それだけをたよりにしてわたしはザ・ブライドというキャラクターを信じ愛したようにおもう。大切なものを奪われた人が、ひどく傷つけられた女性が、自らを突き動かしている憎しみや悲しみを、ほんの一瞬手放してしまうときのそのかおに、広く深い湖を思い浮かべる。ひとの傷ぐちから覗くことのできる景色に、わたしは、とても敏感なのかもしれない。激しい憎悪の中で、愛するものを思い出してしまうことがどんなにつらいのか、厳しいその道の上で、誰一人として傷だらけの自分を見てくれないことがどんなに虚しいのかを、ふと思い出す。わたしの望み通りにすることと、そしてわずかな迷いと、かつてあったあこがれの切ない疼きと、今息を吹きかえした愛情のあたえるひどい衝動、わたしのすべてを受け容れるそのひとが、すべてなおしてくれると信じてしまいそうになること、それでもぐちゃぐちゃにからまったこの腕が最後に抱くのがあなたでないことも、あなたであることも、最初から分かっている。終わらないのだ、血は止まらないのだ、からだを真っ二つに斬ることは復讐だ、心臓に爪を立てることは復讐だ、鉄の弾で額をつらぬくことは復讐だ、塞がった傷をえぐりひらくことも復讐だ、幸福を掴んでも不幸に転んでももうこの命を手放さないかぎり何も終わりはしないんだ。激しい怒りを忘れるくらいなら、自分のためだけに目を閉じるくらいなら、それをやさしさだと思い込むくらいなら、そうやって諦めて生きていくくらいなら、死ぬまで苦しませてほしい、その涯てでかならずあなたのために城を築く。だから、この道が何度赤く染まっても何度でも白く塗り替えて、わたしはこの道の上だけを歩こう。
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