塔の上のカバンツェル

宇宙戦争の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

宇宙戦争(2005年製作の映画)
4.4
4kウルトラHD Blu-ray買った。
母が本作を好きで幼少期から何回も観てきた自分にとっても思い出深い作品でもある。年に1回は観ちゃう。

子供の頃は、アメリカ人の本土決戦願望から来る怪獣映画の系譜と理解していたけど、9.11のメタファーに始まり、川の上流から死体が流れてくる"ヒロシマ"を想起させるシーンや、本や馬など思い思いの私財と共に列をなす避難民、災害時に物資を奪い合う暴徒に、防空壕でのひりつく人間関係…戦時下のまさに地獄めぐりの様相。

果ては、敵であるトライポッドのサイレンは空襲警報のそれだし、触手がTV画面モチーフだったりと、合衆国が見てきたこと、してきたこと、されたくないことをパッケージした、怪獣映画のフォーマットを被った純然たる戦争映画だったなぁと。

社会問題をモチーフにして、エンタメに落とし込むのはジャンル映画の役割の一つだと思うけど、自分が歳を重ねて物事への解像度が上がったことで、作品の強度が何倍にも増すタイプの映画だと思う。

個人的には"奇襲"が空からではなく、まさか地下から始まるという文字通り日常が足元から崩れ落ち、教会が倒壊するという米国人にとっての悪夢みたいな冒頭のトライポッド初登場シーンも好きだけど、何回観てもビックリするシークエンスが、中盤の丘での米軍の戦闘シーン。

支援のためトライポッドに突撃する海兵隊の装甲部隊と、航空支援を行う空軍のA-10、海軍のF/A-18、そして陸軍のアパッチヘリ…世界最強の米軍の総力がまさに壊滅する中で殺到するヤジ馬たち…そんな混乱の最中で繰り広げられる親子のサスペンスという情報過多ぶりに毎回ため息が漏れてしまう…。

「未知との遭遇」で父親としての役割を放棄する過程を描いたスピが、本作でダメ親父が父親としての責任を取り戻していくプロセスを描くにあたり、初めて息子への愛情を口にし、一方で反抗期の息子との子離れを描くという…無数の要素が凝縮されて感情が渋滞する異常なシーンで、この場面だけ定期的に見返してたりするなぁ。

この映画が興味深いのは、米軍協力と引き換えに多数ペンタゴンの要請から脚本への変更点が垣間見えるところですかね。
戦闘中に軍が市民を救助、もしくは誘導しているシーンの追加が望まれたとのことで、野次馬を押し留める陸軍兵の構図が追加されたようだし、当時の最新鋭であるF-22が撃墜されるのを空軍が嫌がったため、A-10などの登場に繋がったのかなと。

(この辺の背景は、米国防総省エンターテイメント連絡事務所という米軍の広報が出している公的文書がより詳しいようです)

米軍の実兵器やリソースにアクセスする代わりに脚本への口出しを許した結果、無難な語り口になるというハリウッド作品(例えば2014年ゴジラ)も多数ある中で、本作はその辺の要請が歪な仕上がりになった要因の一つでもあるのかなとも思う。

米軍の影響という意味では、最後の戦闘シーンは脚本の初稿では死にかけの宇宙人にとどめを指すという、かなり暗めのエンディングだったようだけど、米軍広報の要望で少し元気なトライポッドとの戦闘シーンが用意されたそう。

ただ、酷い目にあってきた一市民であるトムのひらめきにより侵略者に一矢報いる展開には、心の中のUSAがスタンドアップせざるを得ないエモーショナルさがあって、この変更は幸いだったなと。

友人と市民公園でチャンバラする際に「ジャベリン用意!グスタフを使え!」と叫んでいた小学生時代を思い出して懐かしいなぁ…。

最終的に宇宙人が風邪で全滅エンドに文句が言いたくなるところをモーガンフリーマンのイケボで捩じ伏せてくる力技も含めて、偏愛を誘う映画なのでは思います。