『アメリカの夜』みたいに映画制作に奮闘するスタッフを通して映画愛を語るのかと思いきや、美保純主演で制作された映画が入れ子構造としての機能を大幅に超過し、現実と虚構が一つになったような不思議な世界に到達していく。こんな変というか凄まじい問題作を商業映画という枠組みで作ってしまう森崎東監督はゴダール並みに厄介な作家だと思う。
そんな難解な作風の癖に殿山泰司のヅラギャグなど笑いどころをきちんと押さえているのが癪にさわる。
デビュー数年目にして怪物的な魅力を放つ美保純、ベテラン女優としての貫禄と疲弊をにじませる大楠道代も良いけれど、そんな二人を最後にサポートするカメラマンの大木正司の名脇役っぷりにも注目。
全体的に猥褻な作風なのに、美保純の過去を弔うかのような最後の撮影風景のはかない美しさに涙が出る。でもこんな素晴らしい映画でも、商業としては最低扱いされるというオチが皮肉。
映画という夢を売る商売で生きてくことの切なさ、それでも生きていく逞しさを謳う森崎節全快のラストにグッと来る。