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エースをねらえ! 劇場版のドントのレビュー・感想・評価

エースをねらえ! 劇場版(1979年製作の映画)
4.2
 1979年。信じられん。なんだこのアニメは。空前のテニスブームを巻き起こしたスポ根漫画の原作前半を尋常ならざる圧縮力と豪腕の脚色で濃縮還元88分にまとめ上げた、どうかしている劇場版。全く信じられない。
 文句から先に書く。お蝶夫人が途中かなりイヤな人になっている。再構成の都合、原作とアニメは別物であるからしてガマンするが、本作でしか彼女を知らない人は原作を読んで「こっ、こんな聖人君子みたいな先輩がいるのか……!? 神話時代の人物では……?」とそのカッコよさに痺れてほしい。
 とにかく展開がこれでもか! これでもか! というくらいにギチギチに詰め込まれていて、しかも決して総集編のツマみ方ではない。なおかつ大河ドラマのリズムでもない。ほぼ全部のシーンが濃いのだ。たとえば『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』も濃い映画でしたが、あれよりも濃い、と言えば異常さがわかっていただけるだろうか。時に余裕を持たせつつも、飛ばす所は軽々とスッ飛ばす。省略というか、演出によって数秒で「わからせ」てしまう。そして大事なシーンは全力を挙げて描く。このパワー。
 さらに射し込む光、劇的なショット、テニスの力強さが音を立てるように伝わる作画・動画、止め絵、美的な背景と風景、アニメ的なケレン、画面分割、加えて70年代のケーハクな台詞回し(今で言うとオタク喋りに近い)が怒涛のように押し寄せてきて休みがない。濃縮還元と書いたが、オレンジジュースと称してオレンジを超握力で潰したものを口の中に押し込まれているような気分になる。
 演出も、流石に絵に古さは感じるものの極まっており、要は運動とテニスと高校生活をしてるだけながらも(身も蓋もない)、いちいち全てが輝かしい。アニメというもののカブキっぷりと過剰さが横溢している。ヘリが横切る下でお蝶夫人が岡を認めるシーンなど、なんか凄すぎて笑ってしまった。テニスや試合のシーンはどこを切ってもハンパではなく仕上がっている。ここは2023年においても古びて見えない。
「青春」「今ここ」の刹那性が全体にあって、それが岡の献身と宗方の焦燥に響きあっており、原作をある点では越えた(あるいは原作後半へと接近するような)崇高とも呼べる90分弱に仕上がっている。90分弱と書いていて、その短さをまだ信じきれていない。130分くらいあった気がする。作画とかよく動くとかじゃない部分で、「アニメってすげぇ」と久しぶりに思った。
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