大昔にTVで一度観た切りでラストシーンくらいしか記憶になかった本作を再見。
ノーランの『ダンケルク』より50年以上も前に製作された作品ですが、私はこちらの方が好みでした。
監督はアンリ・ヴェルヌイユ。
主演はジャン=ポール・ベルモンド(当時31歳)。
音楽モーリス・ジャール。
ノーラン版でも描かれた1940年の6月、延々続く砂浜と大勢の兵士たちのシーンは明らかに同時代の同じ場所、見覚えのある景色です。
凄い数のエキストラであらためて大作であることを実感しますが、英仏連合軍がたまに独軍に一方的に砲撃ゃ空爆されるばかりで、アクション重視の戦争映画ではありません。
ノーラン版がイギリス軍視点だったのに対してこちらはイギリス軍より冷遇されて士気も低そうなフランス軍視点です。
空から撒かれる独軍のビラには、英軍が仏軍を見捨てて逃げるつもりだと書かれています。
追い詰められて逃げることもできない砂浜で一見のんびりと過ごしているように見えますが、不定期な砲撃や戦闘機による超低空の機銃掃射のたびに兵隊たちは地面に伏せ、そのたびに犠牲者が出ます。そんな中で惰性のごとく続く淡々とした異常な日常が描かれます。
原題は“Week-end à Zuydcoote(ズイドコートの週末)”
かつて週末は水着姿の男女で賑わったダンケルク近くのズイドコートの海水浴場も今や行き場を失って疲れ果てた兵士がひしめき合っています。
ベルモンドは絶望で麻痺したかのような日々を送る兵士を飄々と演じています。
他には無人の家に一人残る娘にカトリーヌ・スパーク、主人公の戦友にフランソワ・ペリエ、ジャン=ピエール・マリエールら。
ちなみに砂浜に半ば埋まって放置されたかわいらしい小型の戦車は仏軍のルノーR35、他の映画では見たことの無い珍しい戦車です。
ベルヌイユ監督はジャン・ギャバンやアラン・ドロンと比べるとベルモンドと組んだ回数が一番多いわりに決定打にかける印象ですが、本作はなかなか印象に残る作品でした。
実は後期のアクション重視の作品より初期の『冬の猿』や本作など淡々とした日常を描く方が味わいのある監督のような気がします。