atsuki

ロストロストロスト/何もかも失われてのatsukiのレビュー・感想・評価

4.5
亡命してきたメカスがカメラを手に入れ、「私ができることといえば、私自身がゼロから立ち上がって、何であろうと一人前になって、故国、リトアニアに帰ることだけ…」というように、記録をしてゆく。故郷の言葉が通じなかった詩人は、映像によって「亡国者たちを記録する目、カメラによる歴史の証人に」、「みんなのために。歴史のために。亡命のいたみを知らない人達のために」、「自分と関わったものすべてを(…)通り、人の顔、町。ああ、消えていく私の幼年時代、これらのイメージがいつか消えていくように—— 」、「自分が経験するものを全て記録するようにしよう…少くともほんの少しずつでも…ずいぶん失ってしまった…だからいま、この経験のこまぎれを集めている—— 」のだろう。メカスはそんな映像と共に「私はセンチメンタルだ。こんな映像はもっと抽象的なほうが気に入られるだろうけど、どうでもいい。私をセンチメンタルとよんでくれ。あなたたちは自分の生まれた国にいる人達」だと言う。つまり、我々はそこで生まれただけの祖国にいる。だから”何もかも失われて”はいないけれど、かちとってもいない。

「ときどき、彼は自分のいる場所がわからなかった。現在と過去がまじり合い、重なり合った。やがて、どこも本当に自分の場所ではなく、どこも自分の故郷ではないので、どこであろうと即座に、そこの人間になる習慣が身についた」

「思い出す、思い出す……、いろんなことがよみがえってくる……この場所のことも。前にここに来たことがあった。ほんとうだ、来たことがあるんだ。この海を見たことがある、そうだ、この浜を歩いたことがある、この水たまりも……」

この後に『リトアニアへの旅の追憶』があることを考えたら泣けてくる。
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