ウシュアイア

信さん・炭坑町のセレナーデのウシュアイアのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

[あらすじ]
昭和38年。
東京で暮らしていた美智代は息子・守を連れて、故郷の福岡の炭鉱町の島へ帰ってくる。
守は地元の子どもたちに絡まれているところを、信一に助けられ、守と信一は親交を結ぶようになる。信一は親を亡くし、叔父夫婦の下で過酷な生活を強いられており、そんな中で息子を助けた件で優しく接してくれる美智代に淡い恋心を抱くのであった。
ほどなくして炭鉱の重労働がきっかけで信一の叔父は亡くなり、信一を取り巻く環境は悪くなり、いつしか美智代・守とも疎遠になってゆく。

時は流れ、昭和45年。
信一は美智代を秘かに想いながら、一家を支えるべく炭鉱で働いていたが、妹(従妹)の高校進学を機に、炭鉱の重労働に見切りをつけ、東京での就職を決めてくる。明るい前途を美智代に祝福されるものの、信一の東京行きが差し迫ったある日、炭鉱に悲劇が襲う。

<感想>
2010年11月公開作品であるが、2010年5月福岡で先行公開されて、
地元票を差し引いた前評判が好評であったため、ずっと観たいと思っていた作品で、前評判通り、期待を裏切らない2010年の密かな名作であった。

高度成長期の昭和のノスタルジーを売りにした作品は多いが、共通しているは、生活水準は今に比べれば低いものの、明日の暮らしは今日よりよくなるという具合に明るい見通しがもてる時代として描かれている。

しかし、その一方で産業の転換期ということでもあり、衰退していく産業もあったのもまた事実。まさに鉱業がその典型であり、衰退していく炭鉱を描いたのが本作である。

衰退の兆しを見せる炭鉱町での人々の暮らしは貧しいながらも、人々が決して悲観的になることなく力強く生きる姿が描かれていた。石炭採掘だけで支えられている島で、煤で肺がやられてしまったり、鉱業の衰退で職を失うことの悲惨さはあるけれど、それでも労働争議を起こして闘っている様子は、今に比べるとエネルギーがあるな、と感心してしまう。
これはこの時代のメンタリティなんだろうけど、信一が東京の工場勤めと妹の進学に希望を見出すというのも、若者は貧しくても前途に希望を持てる時代だったということで、それはそれでいい時代だったんだなと思う。

貧しいけど希望が持てる時代と豊かだけど不安な時代、どちらがいいか?

戻れない以上、ぼくらは豊かで不安な今を生きなきゃいけないけど。
ウシュアイア

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