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ダンサー・イン・ザ・ダークのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

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テルマ(ビヨーク)は、チェコスロバキアからアメリカに渡り、息子ジーンと二人で暮らしている。工場勤めや内職をし、つつましい生活をしながら懸命にお金を貯めているのは、息子の目の手術をするためである。
テルマは生まれつき視力が弱く、次第に低下していき失明する事を知っている。それだけでなく、これは遺伝であり息子ジーンもいずれは視力が落ち目が見えなくなる事も知っている、、、。


手持ちカメラは所在無げに揺れながらテルマを捉える。彼女の運命は辛すぎる。この映画は寓話だ、と言い聞かせながら観ないとやり切れない。
人生は不条理だ。純粋無垢で、弱い人間ほど、みじめな目に遭う。

ただ、テルマは厳しい日常を生きる術を知っている。無機質な機械音や環境音をリズムと捉え、歌を歌う。すると、この世知辛い日常は、華やかなミュージカル映画と化す。
ミュージカルスターになり、歌い踊る。
その時、カメラも一転して活き活きと動き回る。


…ところで。この映画を観て思い出したのは、スティーブンキング原作、フランク・ダラボン監督の映画「ショーシャンクの空に」の中で、ティム・ロス演じるアンディがこんな事を口にするシーン。
『音楽は決して人から奪えない
 心の豊かさを失ってはいけない
 人間の心は石ではない 』
この台詞を思い出した。
長くの間、刑務所に収監され、主体的に生きる事を諦めてしまった仲間たちに、アンディが話した言葉だ。

この言葉を借りるなら、本作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の主人公、テルマの心の中のミュージカルを、誰も奪い去る事は出来なかったと言える。
彼女の強い強い意志は、音楽の力を借りて世界を塗り変える事ができる。
音楽は、それ程の力がある。

そんなメッセージを受け取った。
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