キャソ

ミッドナイト・イン・パリのキャソのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイト・イン・パリ(2011年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

'It's a little unsatisfying because life's a little unsatisfying.'
(現在には不満を感じるものなんだ。なぜなら、人生ってそうだから。)

主人公ギルは1920年代パリへの憧れを捨てきれず、小説家になる夢を追いかけている男。彼が婚約者と訪れたパリで、午前0時になるとなんとその当時のパリにタイムスリップして有名な文豪や芸術家とご対面…!?という、夢と希望あふれるファンタジー映画かと思いきや、ストーリーはどんどんと逆説的な展開を見せる。「過去に戻ったってしょうがない、今を生きろ」なんて、残酷すぎるほど現実的なメッセージじゃないか!アドリアナとベル・エポックへとさらなるタイムスリップをしたところで、ギルはとうとうあの大嫌いだったポールみたいなことを言い出してしまう。懐古主義は現実逃避に過ぎない、と。なんて無情な!映画鑑賞という人生最大最高の現実逃避を、たったいま楽しんでいる最中の我々観客に向ける言葉ではない。ギル、冒頭の語りから君にずっと感情移入して観てきて、すっかりもう君が大好きになってたっていうのに!ともあれそういうわけで、彼は過去の光り輝く時代のパリには留まらない。代わりに彼が住むことに決めたのは今のパリ。そこでちゃっかり可愛いパリジェンヌとも懇意になっちゃったりする。

もう一つだけ。この映画の終わり方って拍子抜けなような趣深いような気がするよね。ギルはあんなに婚約者とあっさり別れちゃって大丈夫?ホテルの荷物は?かのガートルード・スタインに添削してもらった小説でプロ作家になるのか?それでこの先食っていけるのか?正直疑問は尽きない。勝手に途中推測していたが、この手の夢追い人成長譚のエンディングは2つに1つ。様々な出会いを通じて心境に変化が起こり新たな目標を見つける(夢破れるが幸せパターン)か、ちゃんと夢を掴む(ウルトラハッピーエンド)。この映画ってどっちでもない!だってこのあとどうなるか分かんないから!懐古主義賛美=パリ移住=プロ小説家への転向という図式とは限らないのね。でもだからこそ「大切なのは(過去でも未来でもなく)今だ」というメッセージ性が際立つ。うだうだと悩んでいたって、恋愛とかそういう目先の喜びがやっぱり一番心躍るし、結局そういうことを積み重ねてたら人生って過ぎていくのかもしれないな、うん。

最後に。セッションのときにも思ったけど、私って「このあと彼・彼女はどうなるんだろ?どう生きていくんだろ?」系の映画が好きだわ。卒業とかもね。小難しく言うと、そうやって時間を切り取ることこそが映画という芸術作品の真髄なように思う。以上!
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