半兵衛

暗黒街の帝王レッグス・ダイヤモンドの半兵衛のレビュー・感想・評価

4.0
『北陸代理戦争』の松方弘樹を彷彿とさせる実在した上昇志向のギャングの栄光と破滅を描いた作品(ただ主人公のキャラは無責任男の植木等に近いが)。

内面や背景が一切描かれることなくひたすら立身出世のために行動するダントン演じるダイヤモンドレッグスが象徴しているように、バット・ベティカーの心理描写やドラマを無視して強引なまでのスピーディーな演出がこれでもかと炸裂し異様なまでにサクサクと進んでいく。でもそれが段々と快感になっていくのが不思議で、同様に人間らしさを捨ててひたすら裏切り、殺人、脅迫などのピカレスクな道を歩む主人公の活躍が不快感を覚えながら小気味良さを感じていく。感情の描写に重きをなしている今の日本に失われた、ドラマをとにかく進行させることをモットーとするB級精神がこの映画には溢れている。それと予算が無いからか海外のシーンを資料映像で済ませ、あとは映画館(旅行に行った奥さんが映画好きのため)のセットで済ませる簡略的な演出もみどころ。

ドラマチックな部分をはじめ人が死ぬシーンなどアクションまで省略した演出もスピーディーさを加速させるが、それでもドラマ部分を残しているので話の内容は入ってくるさじ加減も○。

女関係も関係を結ぶ→用がなくなればすぐにぽい捨てするを繰り返す様はコンプライアンス的には最悪なのだが、あまりにもテンポが良すぎて何だか受け入れてしまう。あと冒頭刑務所に入ったレッグスが仮出所するためヒロインと結婚するのだが、その際に山守親分レベルの白々しい泣き落としで許しを請うシーンがクソすぎて笑える。

またこの映画は後半の奥さんの台詞が象徴するように、人に自分への愛を求めてばかりで誰も愛さない男のドラマとして見ることも出来る。そう考えると彼がとって来た行動も納得できるし、人間関係を悉く割りきれることも腑に落ちてくる。後半の次々と没落する展開も、彼が誰への愛も無いこと=自分に都合のいい人間としか思っていないことが重くのし掛かってきて同時にこういう奴は確かに存在するなというリアリティがある。部下や子分にも逃げられ、奥さんにも見放された彼があっさりと捨てた愛人にしがみつくようにこっちへ来るよう電話をするシーンの滑稽さと欠如した感情の怖さったらない。そして当然の結末へ。

有名なスターがいない作品なのを逆手にとり、いかつい顔の無名役者を集めてリアルなギャングを演じさせるキャスティングが最高。特に主人公を気に入らない狂暴なボディーガードの狼のような顔立ちが如何にもB級で痺れる。

ちなみにテーマ曲が『仁義なき戦い』のメインテーマとテンポが似ているのが気になったりする、パクったというより津島さんが『仁義なき戦い』を手掛けるときこの映画のメロディをなんとなく覚えていて相応しいからと活用したのかも。
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