kogureawesome

ヴィトゲンシュタインのkogureawesomeのレビュー・感想・評価

ヴィトゲンシュタイン(1993年製作の映画)
4.7
過去鑑賞。

エイズを発症してからも勢力的に映画を作ったデレク・ジャーマンによる
哲学者ヴィトゲンシュタインの伝記映画。
一風変わっている。
紙芝居風で人物の背景はほとんどのシーンで黒のセットの前で撮られている。
手前の人物達が着ている服や小物はヴィヴィッドな色使いで、照明もコントラストが強い。
登場人物の中には伝記映画にもかかわらず火星人が出て来たりする。

映画のラストで
ヴィトゲンシュタイン「すべてジョークから成る哲学の本を書こうとしたことがある」
ケインズ「なぜ書かなかった?」
ヴィトゲンシュタイン「悲しいことにユーモアのセンスが無かった」というと

ケインズが「おとぎ話をしてあげよう。昔々、世界を論理そのものにしようと夢みる若者がいた。たいへん頭のいい彼は夢を実現した。それは美しかった。不完全なものも不確実なものもない世界。彼が歩き出すと仰向けに倒れた。摩擦のことを考えていなかった。ツルツルで起伏がなく、シミひとつなかった。その世界を歩くことが出来なかったのだ。若者が老人になって分かってきた。ザラザラや不確実なものは欠点ではないのだと、それらは世界を動かすものなのだ。賢い老人になった若者は、それこそがあるべき姿だと悟った。それでも、彼の中の何かが、ツルツルの世界を恋しがった。彼は身動きが取れず、どちらにも安住出来なかった、それが彼の悲しみのもとだった」

このシーンがずっと忘れられない。
kogureawesome

kogureawesome