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愛の誕生のBONのレビュー・感想・評価

愛の誕生(1993年製作の映画)
4.2
ひとつの家族を、愛を、冬の凍てついたパリの夜を舞台に、モノクロームの映像の中に結晶させた傑作。

中年男2人の「愛の喪失と誕生」を限りなく静かに映し出した一作。主演はマルコ・ベロッキオの『ポケットの中の握り拳』(1965)で、癇癪持ちで強い怒りを持った若者役として鮮烈デビューしたルー・カステルと、ヌーヴェルヴァーグ以降の「シネマ」を支えてきた伝説的俳優のジャン=ピエール・レオ。

カステルは48歳、トリュフォーの『大人は判ってくれない』(1959)であどけなかったレオーも47歳。奇しくも2人は1年違いの誕生日で、5月28日生まれ。もう若くはない2人が彷徨い、家族や愛人との軋轢に悩まされる。

冬の夜の道、ルー・カステル演じるポールが言う。
「あそこ。ジャンが銃で自殺した部屋だよ。不思議だ」
本作はパリの自室で銃自殺を遂げたガレルの親友であり、ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグの1人であったジャン・ユスターシュの記憶が語られる。

ガレルはユスターシュ以外にもヴェルヴェット・アンダーグラウンドのニコと結婚生活中に7本の映画を撮影し、離婚後に事故死したニコを投影させた映画も制作している。映画と人生は分け隔てできるものではないとの言葉通り、失われた者への愛がガレルに映画を作らせているんだな…。

愛、家庭、社会生活、戦争、芸術に捧げられた人生のすべてに身を引き裂かれ、名撮影監督ラウール・クタールによって捉えられた詩的なモノクロームの映像、ジョン・ケイルのピアノが冬のパリに溶け込んだ、痛々しくも美しい作品だった。

ちなみに2001年にリリースされたフランスのグループ、Troublemakersのトラック『Get Misunderstood』の冒頭で、この映画の台詞(ジャン=ピエール・レオの声と、二次的なルー・カステルの声)の一部がサンプリングされている。
BON

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