SANKOU

アイアンマンのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

アイアンマン(2008年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

アイアンマンというヒーロー誕生の瞬間が観られる記念すべきマーベルスタジオ制作の一作目なのだが、色んな意味でハラハラさせられる映画だった。
架空の国の架空のヴィランが相手ならば純粋にヒーロー物として楽しめたのだが、冒頭からトニー・スタークを襲うのはアフガニスタンのテロリストというのがなかなかに現実的で際どい設定だった。
トニー自身も巨大な軍需企業の社長であり、兵器を売ることで富を得ているという決して潔白な人間ではない。そして彼が産み出した兵器によってトニーはアフガニスタンのテロリストに捕らえられてしまう。
天才的な頭脳を持つトニーは即興でアイアンマンの原型ともなるパワードスーツを開発しピンチから逃れる。
自分の作った兵器によって多くの命が失われていることをまざまざと見せつけられたトニーは、軍需産業から撤退することを誓う。
しかし副社長のオバディアはトニーに内緒で非合法な形で兵器を捌き続けている。
トニーもトニーでテロリストに対抗するためのパワードスーツの開発を秘密裏に行っていた。
トニーはテロリストたちによって搾取されようとしているアフガニスタンの一般市民を救うために、武力でテロリストたちを制圧する。
まさにアメリカが中東のテロリストに対して行った武力による介入と同じことをアイアンマンは行っているのだ。
この世から兵器が無くならない限り争いは止まらない。
しかしアメリカが武力放棄したとしても、テロリストたちが攻撃を止めることはないだろう。
だからテロリストに対抗するためには武力を保持し続けなければならない。
この大きな矛盾をどうすればいいのだろうか。
アイアンマンの存在はアメリカ人にとっての理想の姿であるとも思った。彼のようなヒーローが全てを解決してくれれば良いが、実際にはそんな都合の良い存在はない。
今回のアイアンマンにとってのラスボスがアフガニスタンのテロリストの首領であるならば、何ともアメリカの正義感を振りかざす嫌な作品だなと思ったのだが、黒幕は意外なところに存在した。
テロリストに武器を提供して裏で手を組んでいたのは副社長のオバディアだった。
アフガニスタンのテロリストの首謀者がアメリカの軍需産業の副社長と通じているというのは、ちょっと人を馬鹿にしたような設定だと思ったが、案外尤もらしい理想を掲げながら中東のテロリストが利害関係で動いているというのも荒唐無稽な話ではないのかもしれない。
とにかくアイアンマンの真の敵が身内にいたということが、却ってホッとするような展開なのがおかしなものだと思った。
テクノロジーに溺れたオバディアは、後先のことも考えずにトニーに襲いかかる。
結果的にアイアンマンの勝利で終わるのだが、トニー自身も決して模範的なヒーロー像ではないのが良かった。
色々と男の子なら誰しも憧れるようなシーンが数多くあるし、映像も古さを感じさせないが、倫理観は一昔前のものであると思った。
トニーが最後に発する「私がアイアンマンだ」のキメ台詞は、これから始まるマーベルコミックのシリーズの幕開けにふさわしい格好よさだと思った。
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