茶碗むしと世界地図

日本暗殺秘録の茶碗むしと世界地図のレビュー・感想・評価

日本暗殺秘録(1969年製作の映画)
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 近代日本の暗殺史を描いた1969年公開の作品である。

 豪華キャストで、しかも大半の俳優は出番が少ないというのにすごいインパクトがあり、企画の切り口も斬新で異色作といえば異色作なのだが、凄い作品だと思う。「桜田門外の変」からはじまり、数々の事件をめまぐるしくつないで見せる序盤は圧巻で、これを見るだけでも価値がある(最初の若山富三郎の殺陣と迫力が尋常でない)。ただ、暗殺の瞬間を見せるだけだと単なるエクスプロイテーション映画になってしまうので、暗殺犯の内面にフォーカスをあてようという感じで「血盟団事件」のエピソードを長尺にして重厚な人間ドラマもきちんと見せている(そのかわりに映画全体のテンポはもたつく)。
 「血盟団事件」の小沼正役の千葉真一と井上日召役の片岡千恵蔵がすごく、緊張感たっぷりに保たせる演技力に驚嘆してしまう。小沼と井上は国家主義というコードを共有していて、その師弟関係は息苦しい印象を与えるが、小沼に暗殺を命令した時にかける井上の「死んではいかんぞ」という言葉と表情にとても人間味があり、2人の感情的な絆が強調されている。テロリストをちょっと美化しすぎな気もするので同情的になるのは危険ではと思うが、その心情などについては理解できるところもある。公開当時は学生運動が盛んだったこともあり、そのへんと呼応しているというか、反骨の精神の重要性を表していると思われる。

 ほかのエピソードも「血盟団事件」くらい高密度で見せてくれたらよいのにと思ったが、それにしてもこの企画は「血盟団事件」から拡張したものなのか、もともとこういう構成で組んだものなのか、ということを考えてしまう。日本映画も斜陽にさしかかる前なので、予算もあるしこうなったらオールスター映画にしちゃいましょうみたいなノリだったら面白いなと思った。