こ

グラン・ブルー完全版 -デジタル・レストア・バージョン-のこのレビュー・感想・評価

3.7
海という別世界の魅力に取り憑かれてしまった2人の男の物語。しかし愛してやまないその世界の美しさを享受するには、生命の危険を冒す必要があることに、彼らは苦悩を感じていた。

海への愛と恐怖はまさに表裏一体。自身の世界に没頭することに計り知れない苦しみを感じていた彼らは、自らその命を差し出すことで心から海を愛そうとした。

陸では生きられない、海でなくては生を100%享受できない彼らはまさしく魚のようだった。彼ら3人の人間関係や、それを取り巻く人々の動きはまさに彼らが陸という世界での生きにくさを体現していたのかもしれない。

一見傲慢で強気に見えるエンゾが誰よりも人間味に溢れていたと思う。彼も少年時代より海という世界を心から愛していたはずだ。それがいつの間にか、親友とのプライドをかけた勝負の戦場と化していたことに違和感を感じていた。

そして勝負に負け続けたことにより、自身の存在意義が信じられなくなり、海への価値観が歪んでいくことに対する自己嫌悪が見受けられた。自分が劣等感を感じることよりも、その原因が愛してやまない海という世界であることの方が、彼にとっては苦しかったのかもしれない。

そしてそのエンゾに触発されたのがジャック。ダイビング勝負をきっかけに、彼は無意識のうちに親友の海への愛情を歪ませてしまったことに気づく。エンゾを海中まで見送った瞬間に、彼もまた根本の価値観、真に望む生き方がエンゾと全く同様であることを悟る。

ジャックが天井から浸水している幻覚を見た際に、彼が本当恐怖に感じていたのは浸水による窒息死ではなく、愛する海に恐怖心を覚えてしまっているというその事実に対してである。

男がロマンに体と命を捧げたととるか、魅惑的な世界に狂わされていったととるかは人次第。恐怖と向き合いつつ世界を愛するよりも、その恐怖をいっそ無くすことで永遠に世界に没入するという選択肢は、計り知れない信念の強さ。

陸ではどこがぎこちなく見えた2人が、水中でシャンパンを飲むシーンが1番イキイキとしていた。それが2人の生き方の結論そのものだろう。
こ