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(500)日のサマーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

(500)日のサマー(2009年製作の映画)
4.2
 映画は冒頭、鉤括弧付きで500を示してから、488日目にまで遡る。街が見渡せる丘、ベンチの中心に寄り添うように座る男女、女は男の手の上にそっと手の平を乗せる。ボーイ・ミーツ・ガールな物語の起点は1月8日、グリーティングカードの会社に勤めるライターのトム・ハンセン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が、初めてサマー・フィン(ズーイー・デシャネル)に会ったのは、会社のボス(クラーク・グレッグ)が新しいアシスタントとして彼女を紹介した時だった。それがサマーとの1日目、トムは一瞬で恋に落ちた。4日目、エレベーターの中でトムのヘッドフォンから漏れるThe Smithsの「There Is a Light That Never Goes Out」のメロディ、サマーはトムの名前もわからないまま、次第に会話を交わすようになる。28日目、カラオケパーティの席で、トムはサマーに恋人がいないことを知るが、彼女は愛を信じていなかった。ブルース・スプリングスティーンと見せかけて、ナンシー・シナトラの『シュガー・タウンは恋の町』を歌うサマーの姿にトムは夢中になる。次の日の午後、サマーは会社で不意にトムにキスをする。それが男の心に火を点けた。34日目、二人は一緒にIKEAへ行き、展示されているソファに並んで腰かけたり、ベッドに寝そべったりして新婚夫婦ごっこを楽しんだ。「真剣につきあう気はない」と言うサマーに、トムは半ば強引に「気楽な関係でいい」と言わされてしまう。

 タイトルの『(500)日のサマー』とは500日目の夏のことではなく、サマーという女性に恋した主人公の恋の終わりを意味する。「私たちは友達」「軽い友人関係でいましょうね」「真剣に付き合う気はないわ」という女の3点セットの念押しに男は渋々頷きながらも、職場での情熱的なキスや家具屋での擬似夫婦ごっこ、そしてシャワー室での情事に徐々に本気の速度を上げて行く。ベル&セバスチャンのブレイク前に飛び付き。アイスクリーム屋や不動産屋を繁盛させた女は、トム・ハンセンにとっても仕事を充実させてくれる女に見えるが、その実、男はサマーと本気でお付き合いしているのか?それともただの友達なのか?そのどちらかの判断に苦しみながら100日を越え300日を越え、400日目に差し掛かったところで聞きたくなかった言葉を聞き、ただただ塞ぎ込む。シド&ナンシー状態だった初期のイケイケ・モードから一転し、2人の仲がお通夜のような湿っぽさに変貌した理由は何だったのか?それを映画はトム・ハンセンの側から明らかにしようとするが、もう1人の当事者であるはずのサマー・フィンの心理描写は一切明らかにされることはない。失恋男の男女の整合性の取れないレポートは、愛する女に裏切られた男の悲痛な叫びをこれでもかと伝える。彼女は果たして天使だったのか?それとも悪魔だったのか?物語は核心に触れることがないまま、生涯の伴侶を勝ち取った女の背中を男はただ黙って見守るしかない。だが運命の歯車に狂わされた男の運命は信じられないことに暗転する。その意表を突くラストの清々しさにやられる21世紀の男の失恋映画の決定版である。
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