河

貝殻と僧侶の河のレビュー・感想・評価

貝殻と僧侶(1927年製作の映画)
5.0
フランスアヴァンギャルド映画の先駆けとして、ルネ・クレールの『幕間』やマン・レイの映画と共にフランス映画史についての文章で必ず挙げられる40分の映画。アリス・ギイに続くフランスで2人目の女性監督らしい。

筋としては近づいても触れることのできない追いかけっこのようなもので、僧侶の女性への欲望の発見、そしてその実現されない欲望が嫉妬や理想化を伴いながら深化し現実から遊離していく過程を表したようなものに感じられる。

僧侶が手に入れることができるのはその女性の衣服であり象徴である貝殻のみであり、僧侶はその貝殻を通して女性への欲望を自身の中で実現する。そしてその女性や僧侶自体を何かの象徴として読み替えることもできるように思う。

予期しないショットが前のショットと断絶せず、連続性を保ちながら現れ続ける。それによって主観が違う場所、違うイメージへと連想的に飛躍していく。それが夢の中へと入っていくような没入感、迷宮感に繋がっている。筋としても映像としても断絶がないところが他のダダ・シュルレアリスム映画と違うところだと思う。

速度やピントの操作、光の使い方、フィルムの合成、画面の歪み、カメラの動かし方やアングルなど、映像的な操作、そして構図の手数が非常に多い。あらゆる方法がこの映画の中で試され尽くしているように感じる。

そして、そうやって撮られたショット一つ一つに異様な何かが漲っているような緊張感がある。揺れるシャンデリアなど、ショット間の連想的な飛躍だけでなく、ショット単位で見ても凄まじい。

基調となる四隅の光を絞った円形の構図を含めて画面が非常にゴシック的。舞台となるのが庭園と城であることを考えても、シュルレアリスムよりもゴシックリヴァイヴァルの系譜にある作品なんじゃないかと思う。

同時に、カメラ移動の感覚や建物、自然の撮り方はムルナウに近く、ドイツ時代のムルナウの延長線上に何か別のものが融合して作られた映画だとも思う。この先にマヤデレンがいるんだろうなと思う。

In The Nurseryの『The Seashell and the Clergyman』を再生しながら見るといいよっていうYouTubeのコメントに素直に従って見た。再生のタイミングミスったっぽくて数秒映像と音楽のズレがあったけど、その気持ち悪さがいい方向に作用して非常に没入して見れた。
河