ヘソの曲り角

男の敵のヘソの曲り角のレビュー・感想・評価

男の敵(1935年製作の映画)
4.0
1年くらい新しいものばかり見ていて自分の中で映画の評価軸を見失ったので先人の教えにしたがってフォードに立ち帰ることにした。35年監督賞受賞作。

 あまり詳しくないがアイルランド独立戦争の頃が舞台のはず。食いっぱぐれた元IRA側のアホのおっちゃんジポが好きな娼婦のために懸賞金のかかってる仲間を警察にタレこんで20ポンドを手に入れる。んでまぁ罪悪感ありまくりのジポは酒飲んだり盲人にあげたり街の人におごったり散財してしまう。
 結局ジポはIRAに目をつけられてしまいかつての上司にタレこんだ裏切り者を言うよう詰められた結果、関係ない仕立屋だと話をでっち上げる。その査問会が夜中に開かれることになるが明らかに怪しいジポは尾行されて…

愚かなるジポの挙動を通して、バレるとわかりきってる嘘をつき通そうとしたあの時の苦しさがはっきりと思い出される。おまけに好きな女に貢ごうとしてかつての仲間を売ったのを隠し通そうとするなんて…。20ポンドをもらったはいいものの壁を見れば賞金首の貼り紙を思い出し誰と話しても疑われてるような気がして、良心が痛んでやけっぱちになるジポ。それでも神に赦されようとしてボロボロの体で死んだ(密告して殺した)仲間の母に赦しを乞うジポ。最後の最後にとうとう「密告したのは俺なんだ」と口にできたジポ。お疲れ様、ジポ。女のためなら仲間も売れるけどもともとIRA的組織追い出されたのも違反者を処刑できなかったからという優しさも持っているのがジポ。

終始音楽が素晴らしい。とにかくアングルに凝っててかっこいいショットがたくさん。前半のまったりテンポはサイレントのそれ。酔っぱらい散財シーンとアクション・サスペンスシーンの緩急が抜群にいい。最終盤の乱闘シーンの急な幕切れがすごい。呑み屋で全員にフィッシュ&チップスおごるシーンの群衆の躍動感たるや。高級クラブのシーンにおけるジポのとんでもない怪力がギャグとして処理されるさりげなさ。だらだら垂れる汗をハンチング帽で何度も拭うジポ。


PS 主演ヴィクター・マクラグレンの息子がアンドリュー・V・マクラグレンなのか! 親子揃っていい仕事をしよる。